『光る君へ』吉高由里子が“走る”ことで動く物語 大石静の紡ぎ出す平安時代に釘付け
本作を通して、あまり時代劇では見慣れない「平安時代」を目の当たりにして感じるのは、「婿取り婚」の形を取っていたとはいえ、貴族にとっての結婚は、家を盛り立てるための手段であり、娘たちは、男性たちの政治のため、出世のための道具でしかなかったということ。
だから道長の周りの「おなごは皆寂しがってる」。中でも一際印象的なのが道長の姉・詮子(吉田羊)である。現時点においてではあるが、倫子(黒木華)をはじめ多くの登場人物が、まるで平安時代を描いた絵巻物から抜け出してきたかのような平安美女を演じている中で、唯一まひろと詮子だけが動的な存在として描かれている。
まひろと同様に純粋で、自分の心に正直な詮子。だが、「楽しい」まひろと「寂しい」詮子、自由な鳥と籠の中の鳥とでも言いたくなるほどに、彼女たちの日々の姿は対照的だ。その比較は、第2話において、まひろと詮子がそれぞれに筆を取っている場面が続けて示され、その結果として円融天皇(坂東巳之助)に渾身のラブレターを否定される詮子の失望が描かれることでより際立つ。
また、彼女の思いは、藤原兼家(段田安則)の娘、円融天皇の妻という、政の中枢にいる人物でありながら、大石静脚本、吉田羊出演の『恋する母たち』(TBS系)のように、現代を生きる妻・母たちにも通じる、一人の恋する女性の思いと、それが愛する人に届かないことの悲哀なのである。
まひろは走る。彼女を走らせるのは、淡い恋心だったり、文章を書くこと・学ぶこと、もしくは物語への渇望だったり、総じて好きなこと・人への思いだ。彼女の運命は、いい方にも悪い方にも、彼女が走ることによって動いていく。家を抜け出し、市井の人々の住む場所に溶け込み、男性の声色を真似、「文章を書く」という自分の好きなことで、人の役に立てることを心から喜ぶ。たとえ、身分違いの完全にアウェイな環境に置かれても、「好き」が高じて得た知識によって、彼女は自由自在に泳いでいける。その先に一体何があるのか。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK