水上恒司が体現する“最愛の人” 『ブギウギ』『あの花』で演じ分ける笑顔の質感の違い

水上恒司が体現する2人の“最愛の人”の違い

 いっぽう、『あの花』で演じる主人公・佐久間彰もつねに儚さをまとう存在だ。

 物語の舞台は1945年の戦時下の日本。軍に所属する彼は立派な体格と優しい正義感を持つ人物で、特攻隊員である。つまり、もう間もなくこの世を去ってしまうことが決定づけられている。現代からタイムスリップしてきてしまったヒロイン・加納百合(福原遥)を空襲や厳格な警官から守るなど、どれだけたくましく振る舞っていようとも、彼の存在そのものが儚く悲しいのである。正直なところ百合と彰の関係は、「切ない」などの言葉で済ませられるものではない。

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』©️2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』©️2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

 水上はたいていのことには動じないような余裕ある人物像をつくり上げているが、福原の嘆きの演技に呼応するように、その内面が揺れているのがたしかに分かる。瞳の動きや声の感触の変化からだ。彰というキャラクターのトーンを維持したまま“受けの演技”に徹し、目の前で起こる出来事や他者のアクションを柔らかく受け止めている。こういったところに、現在の水上の俳優としての器の大きさが見て取れるだろう。

 『ブギウギ』でも『あの花』でも、水上はヒロインにとって“最愛の人”を体現している。しかも両作はほとんど同じ時代を描いている(現在の『ブギウギ』ではすでに戦争は終結)。けれども彰が特攻兵であるのに対し、愛助は身体が弱いため戦争に行くことができなかった。両者はつねにヒロインの味方だが、似て非なるもの。死を覚悟している者と、戦時中であれ愛する人と幸福な時間を過ごす者とでは、笑顔の質感がまったく異なる。これから愛助の無邪気な笑顔にも変化が生じてくるはず。こうした微細な演じ分けができるのが、俳優・水上恒司の魅力なのだ。

■公開情報
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
全国公開中
出演:福原遥、水上恒司、伊藤健太郎、嶋﨑斗亜(Lil かんさい/関西ジャニーズJr.)、上川周作、小野塚勇人(劇団EXILE)、出口夏希、中嶋朋子、坪倉由幸、松坂慶子
監督:成田洋一
脚本:山浦雅大、成田洋一
原作:汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)
主題歌:福山雅治「想望」(アミューズ/Polydor Records)
配給:松竹
製作:映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
©️2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/ano-hana-movie/
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