『ブギウギ』スズ子がぶち当たる“結婚”か“仕事”か 過去の朝ドラから考える悩みの本質

『ブギウギ』結婚とキャリアに悩むヒロイン

 NHK連続小説『ブギウギ』は舞台の本番シーンをしっかり見せてくれるのがいい。タナケン(生瀬勝久)との喜劇『舞台よ!踊れ!』が大成功を収め、歌手としても女優としても福来スズ子(趣里)は、ますますノリに乗っていた。しかし、キャリアが順調になる時に限って私生活が危うくなるのは、人生の法則なのだろうか。そのくらい実社会でも“あるある”な展開をスズ子は迎えることになる。

 小夜(富田望生)がついにサム(ジャック・ケネディ)から求婚された場面も、2人でアメリカに発つ日にも立ち会ったスズ子と愛助。昭和18年に出会った2人は、物語の現在である昭和21年まで戦禍を通してお互いを支え合い、早い段階から同棲をしていた。今回、愛助の母・トミ(小雪)が「そろそろ結婚を考えろ」と伝言をよこすくらい、側から見れば彼らは実質ほぼ結婚しているようなものだ。彼らがすぐに籍を入れられなかったのはトミから反対されていたことや愛助の健康悪化、戦争など様々な“理由”があった。その間、スズ子が歌手「福来スズ子」としてキャリアを伸ばせたのも事実。そして今、トミは2人の結婚を認めるかわりにスズ子に歌手をやめるような条件を出した。

 いわゆる“結婚”か“仕事”か、で悩む展開はこれまでの朝ドラでもよく見受けられた。しかし、少し考えるのが難しいのは今回スズ子が仕事を諦めなければいけないのがあくまでトミの交換条件によるものであり、彼女はこれまでも仕事をしながら愛助の世話をしたり、洗濯や料理など家事をしたりする場面がよく描かれていること。つまり、本来なら結婚生活が彼女のキャリアに影響を与えない(すでに両立できている)のである。もちろん、時勢もあって仕事がない時期が多かったし、これからどんどん売れていけば愛助と一緒に家にいる時間はさらに減るだろう。それはそれで、彼女の今後の課題になっていくことは容易に想像できる。

 直近の朝ドラのヒロインたちは、実はあまり「結婚とキャリアのどちらを取るか」という悩みを持つ子が少なかった。しかし、もちろん「妻になること」と「“結婚以前の自分”を保つこと」についての悩みは存在し続けるものだ。前作の『らんまん』では、寿恵子(浜辺美波)は万太郎(神木隆之介)から間接的に「迎えに行く」と言われてから、しばしすれ違いの日々を送っていたが、最終的に自ら高藤(伊礼彼方)の妾になることを断ると、ドレスを着たまま飛び出した。まるで“彼女から”万太郎を迎えに行くかのように。その後、妻として主に家計の面で大変苦労をするわけだが、寿恵子は常に自分の“冒険”も忘れていなかった。

 思い返せば、『カムカムエヴリバディ』のるい(深津絵里)もジョー(オダギリジョー)からのプロポーズに悩んでいた。大阪に住む彼女にとって、彼との結婚は東京へ生活の拠点を変えることと同義であったから、それまでの自分の生活や一緒に暮らしていた人々との別れを意味する。特に自分を迎え、娘のように面倒を見てくれたクリーニング店の竹村平助(村田雄浩)と和子(濱田マリ)夫妻に申し訳ない気持ちがあった。しかし、最終的に夫妻から背中を押されて上京と結婚生活への決意を決める。彼女もやはり、キャリアというよりかはそれ以前の生活との別れについて悩んでいた。

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