『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』『窓ぎわのトットちゃん』が“新しい戦前”のいま作られた意義

『鬼太郎』『トットちゃん』が作られた意義

悪気なく異常な社会に加担する人々

『窓ぎわのトットちゃん』©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

 それぞれの作品には、戦争以外にもテーマやメッセージがいくつも込められている。『鬼太郎』では立場の異なる男同士の友情が描かれ、『トットちゃん』では障がいや差別の問題と優しさと寛容さが描かれた。それでも両作品には、美しくも凛々しくも何ともない戦中、戦後の日本を描こうとする明確な意図があったように思う。その象徴が二つの桜だ。『鬼太郎誕生』では搾取される幽霊族の血で染まった真っ赤な血桜、『トットちゃん』では顔なじみの駅員さんがいつの間にか消えて大量の桜が散りゆく様子が描かれた。

 もう一つの共通点は、悪気なく異常な社会に加担する人々が描かれていたことだ。『鬼太郎誕生』では、哭倉村の村人たちが龍賀一族の悪事に加担していたし(彼らも容赦なく狂骨に殺された)、異常な戦場には誰も異議を唱えることはできなかった。咳をしている子どもがいる列車で無遠慮に煙草を喫う人々だって悪気があったわけじゃない。そういう社会だったというだけだ。『トットちゃん』では、どこにでもいるような普通の庶民が、いつの間にか戦争に加担している様子がそこかしこで描かれていた。「のぞきからくり」に夢中になる憲兵も、普段はきっと気のいい人なのだろう。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』©︎映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

 『鬼太郎誕生』の古賀豪監督はラジオ番組のインタビューで「異常性の中にずっといると気がつかないのが一番怖い」「我々の日常も異常なのかもしれないという気持ちは常に持ち続けていた」と語っている(SBSラジオ『TOROアニメーション総研』12月18日)。一方、『トットちゃん』の八鍬新之介監督は「過去の日本人を、今の感覚で切って捨てるのではなくて、当時の感覚で捉え直してほしい」とした上で、「『どんな理由があっても、絶対に戦争しちゃいけない』という言葉だけが真実だと思っているんです」と言う。(※)

 『鬼太郎誕生』はファンタジー、『トットちゃん』は事実に即した物語と大きく異なるが、それぞれのアプローチで「新しい戦前」とも言われる2023年に78年前の戦争を描き出そうとしたこと、そしてそれが多くの人に観られていることに大きな意義を感じる。それが今、日本で可能なのはアニメ映画ということなのだろう。

参照

※ https://webnewtype.com/report/staff/entry-27935.html

■公開情報
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
全国公開中
出演:沢城みゆき、野沢雅子、関俊彦、木内秀信、種﨑敦美、小林由美子、白鳥哲、飛田展男、中井和哉、沢海陽子、山路和弘、皆口裕子、釘宮理恵、石田彰、古川登志夫、庄司宇芽香、松風雅也
監督:古賀豪
脚本:吉野弘幸
キャラクターデザイン:谷田部透湖
制作:東映アニメーション
配給:東映
©︎映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
公式サイト:https://kitaro-tanjo.com/
公式X(旧Twitter):@kitaroanime50th

映画『窓ぎわのトットちゃん』
全国公開中
監督:八鍬新之介
脚本:八鍬新之介、鈴木洋介
出演:大野りりあな、小栗旬、杏、滝沢カレン、役所広司ほか
キャラクターデザイン:金子志津枝
制作:シンエイ動画
原作:『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著/講談社刊)
配給:東宝
©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会
公式サイト:tottochan-movie.jp
公式X(旧Twitter):@tottochan_movie
公式Instagram:@tottochan_movie
公式Facebook:@tottochan.movie

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