『ブギウギ』にはこれまでの朝ドラにない“猥雑さ”がある 足立紳の作家性が伝わる生活描写

『ブギウギ』独特の“猥雑さ”

 枷があればあるほど恋は燃え上がるもの。そして、恋とはしょうもなく滑稽なもの。NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第12週「あなたのスズ子」でスズ子(趣里)と愛助(水上恒司)の恋の邪魔を行った人たちは、五木(村上新悟)、小夜(富田望生)、村山興業の坂口(黒田有)、そしてラスボス・トミ(小雪)。でも、邪魔されればされるほどスズ子と愛助の絆は強くなっていった。

 そもそもなぜ反対されるのか。愛助は村山興業の跡取りで、妻になる人は、彼を支えないといけない。スズ子のような現役スター歌手では村山興業の社長夫人の役割はつとまらないということのようだ。しかも9歳も年上。

 先日、民放のバラエティ番組で、歌舞伎役者・片岡愛之助の妻としての藤原紀香の奮闘を紹介していた(奇しくも「愛」つながり)。梨園の妻は裏方に徹するもので、必要以上に目立つとたちまち厳しい視線に晒され、紀香は苦労したようだ。そういえば、尾上菊五郎の妻・富司純子も大女優ながら、尾上家に関する会見のとき、そっと影で裏方に徹していた。

 番組によれば、愛之助は紀香に俳優タレント業を辞めさせようとは思わず、むしろ続けることを応援していたとか。村山興業と歌舞伎の世界をひとくくりにはできないが、興行ーーショービジネスの世界という点では同じ。芸能活動と平行して行えるほど容易ではないのだろう。

 坂口は手切れ金を用意してまで、スズ子と愛助を引き離そうとするが、スズ子が野心や金銭欲で愛助と恋しているわけではないので、そんなことでは引き下がれない。そんなおり、五木は坂口からふたりを別れさせるようにと、事前にもらったお金と楽団のギャラを持って、戦争未亡人とその息子とどこかへ逃げて行ってしまう。

 おりしも、国民一丸となって辛抱しないといけない戦争中である。そんなときに、スズ子と愛助の、ややままごと的な恋のみならず、五木の、情にほだされた、なれの果ての物語まで。だが、戦争だからといって愛は止まらないのである。

 そして、戦争中だからといって、生理現象も止められない。ある時、空襲警報が出て避難しないといけない緊迫した状況で、スズ子はトイレから出て行くことができなくなっていた。愛助がトイレの前で心配して声をかける。そこで思わず「スズ子」とはじめて呼び捨てにしたうえ、ようやく出てきたスズ子をお姫様抱っこして、全力で走る。

 本人たちは超真剣だが、いささか滑稽で、真面目に戦争を考えたい人にはバカにしているような気持ちにもなりそうな、危うさもある描写だ。でも、実際、こういうこともあるだろう。地震のときお風呂に入っていて焦ったということはあるではないか。ひじょうにリアリティある生活描写だともいえるのだ。

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