『ダンまち』10周年、大森藤ノインタビュー 「人生を楽しむ上での何かになってくれたら」

『ダンまち』10周年、大森藤ノインタビュー

アニメ化を通して得た新たな発見

『劇場版 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ― オリオンの矢 ―』予告

――『ダンまち』は4期にわたってテレビアニメ化され、『外伝 ソード・オラトリア』もあって映画も作られました。そうしたメディアミックス展開はどの段階から始まったのですか。

大森:第1巻が出た頃からそういった気配はあった気がします。ただ、まずはコミカライズされたことが嬉しかったですね。アニメ化については自分の作品に自信があっても、アニメでも“いける”とはさすがに思えませんでした。全然分からない分野でしたから、ウェブ小説での成功体験が何も活かせません。脚本会議も正直、怖かったです。

ーー脚本会議に出ていたのですね。原作者として深くアニメ化に関わられたのですか?

大森:第1期の時からプロデューサーの方に、原作者としてではなくスタッフの1人として入って欲しいと直接言われて、それで気が楽になりました。『ダンまち』は良い意味でよく“殴り合う”ところがあって、たとえ原作者でもおかしなことを言うようなら、皆が意見をしてくれるんです。結局、意見を言わないことが一番後悔するというのはわかりました。怒られてもいいし、「違いますよ」と窘められるかもしれないけれど、ちゃんと発言しようって。スタッフさんと関わりながら、アニメのことを勉強させてもらいました。

――小説とアニメではやはり違うところがありますか?

大森:ありますね。たとえば第1期のシルバーバック戦で、監督が最初にあげてきたシルバーバックのデザインが、魔石が体の表面に露出しているデザインだったんです。モンスターの魔石は体内にあって露出していないという設定なので直してもらったんですが、第3話でベルが敵の魔石を貫く映像的なカッコ良さを考えると、監督の案に乗った方がよかったと後悔したことがありました。

ーーアニメの演出的に見せ場を作った方が良かったということですね。

大森:原作の設定にこだわり過ぎてしまったという反省が私の中にあって、それからはすぐに「原作の設定では~」と言うことは止めました。媒体の違いをちゃんと考えるようになりましたね。原作が神だと言うことはある面では正しいかもしれないけれど、媒体が違えばその神通力は発動しないということを、今は自覚してやっています。漫画やゲーム、アニメではもっと柔軟にやらないと、って。

ーーアニメの現場で学んだことを原作の描写に活かすようなことも?

大森:アニメを意識しすぎると小説として面白くなくなってしまうので、バランスは難しいんですが、特殊能力を発動する際に目が光っているとか、そういった分かりやすい演出を小説に落とし込んだ時に、中二っぽくではないですがカッコ良く見えることを意識して、書き方を考えるようにはなりました。私自身は『ダンまち』を書く際に、頭の中に漫画のコマ割りとかアニメーションのようなものを作ってから、文字に落とし込む作業を第1巻の頃からずっとやっています。本を読むのが嫌いだったからということもありますが、アニメの『ダンまち』の第1期を経験したことで、論理的にも正しいと思えるようになりました。

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅢ』PV

――「異端児(ゼノス)編」など差別の問題が含まれていて、アニメにするのは難しいと思ったらしっかりと描かれていて感動しました。

大森:「異端児(ゼノス)編」までアニメにはならないだろうな、と踏んでいたところがあったんです。小説にしかできない表現かなと思って書きました。第18巻の派閥大戦を書き上げたあとも、アニメのプロデューサーさんから「何年アニメ化作家をやっているんですか」と怒られました(笑)。これだけたくさん語っておいてアレなんですけど、やはり自分の書きたいことは筆が走ってしまいます。いろいろと意識はしていますが、本軸はずらせない頑固一徹みたいなところがあると思います。

ーーそれでもやはりアニメ化は続いてほしいですか?

大森:もちろんです。本編で4期、『ソード・オラトリア』で1期、『オリオンの矢』も含めると6回もJ.C.STAFFさんが映像化してくれました。わがままになってしまいますが、本編の最終巻まで行けたら本当に幸せだと思ってしまいます。

ーーベルを演じる松岡禎丞さんも一緒に成長している感じがありますね。

大森:本当にそうですね。松岡さんとはいろいろと話をしていて、とても尊敬しています。実は松岡さんが演じるベルは、私が原作で書くときのベルと少し違うと私自身は感じていて。アニメのベルは松岡さんのベルになっているんです。それで、どうしてそうした演技をしたのか質問するのが楽しいんです。松岡さんやヘスティアを演じる水瀬いのりさんにベルもヘスティアも“乗っ取られた”と今では思っていて、私の想像をどんどんと飛び越えていってほしいです。それで、私の方は松岡さんのベルに負けないベルを原作で書こうとはりきってます。今、松岡さんがすごいスピードで迫っていますが、原作はもっと凄いベルを書き続けて前を走ろうって。負けたくないですね。『ダンまち』という大きなファミリアの中で、原作者とか関係なしに力を合わせて盛り上げていきたいです。きっと松岡さんだって、私のベルを超えてきてくれると思うし、信じてます。

ベル&ヘスティアの『ダンまちⅣ 深章 厄災篇』番宣CM

ーーアニメの『ダンまち』といえばヘスティアの「例の紐」が大きく騒がれました。

大森:紐は原作では一切表記がないんです。イラストのヤスダスズヒト先生が作ったデザインなので、まさにヤスダ先生の功績です。ただ、原作のイラストでも読者の方々が騒いだということはなかったと思います。だから広まったのはアニメのおかげなのかなって。第1期の山川吉樹監督、J.C.STAFFの方々が丁寧に紐の動きを拾ったからであって、あれはアニメも素晴らしかったんだと思っています。

ーー『ダンまち』の小説の話に戻りますが、これからベルはどうなっていくんでしょう?

大森:どうなっていくんでしょうかね。やることは決まってるし、着地点も決まっています。本編はもう最終章に差しかかっているので、あとは終わりまで突き進むだけではあるんですけど、それでベルが英雄になるのかどうか。そういった言葉が相応しいのかどうか。私の口から言うのではなく、皆さんの目で見届けてほしいと思っています。他の人たちの応援を受け取って応えようとするのがベルだと私は思っています。等身大のままでいてほしいという気持ちもあるし、強い存在にもなってほしい。でも遠くへ行ってしまうとそれはベルではなくなってしまう。難しいですね。ヘスティアの隣にいて、皆のそばにいるというのがベルなのかな。今はまだうまく言語化できません。

ーー迷いながら進んで行くのがベルらしいと言えば言えますね。

大森:私がこれから書く物語を受け入れてもらえるかはちょっと分からないですけど、私は私で自分を信じて書いていきます。こういう言い方をすると読者の方に不安を抱かせてしまうかもしれませんが、間違えたとしても“正しい間違い”をしたいなと思っています。それを超えてベルたちの最後にたどり着きたいです。私は不器用なので、いろいろな人からたくさんのことを言われても、最後は自分で考えて、悩んで、答えを出すと思います。

ーー13カ月の連続刊行が終わって、少し休みたいということはなかったのですか?

大森:正直に言うとあります(笑)。ただ、休んでも1週間後には戻ってくるんじゃないかみたいな感じはありますね。趣味とかあまりなくて、外出していても旅行に行っても、作品のネタが降ってくるまで走ったり歩き回ったりしているといった感じで、作品と100%切り離せる瞬間がないんです。映画やアニメを観ることなんかも同じで、最近は有名な作品は頑張って観ようとしています。映像作品からはインスピレーションをもらえることも多いので。

ーーアニメを観ていてもやはり創造の源にしてしまうと。『ダンまち』以外では漫画『杖と剣のウィストリア』の原作をされていますが、小説で新シリーズの構想を考えてはいますか?

大森:やりたい新作はあるんですが、GA文庫さんには『ダンまち』がちゃんと書けるならいいよと言われていて(苦笑)、それは無理なのでいつ出せるか分かりません。小説家として、今のまま走り続けられればいいですね。最前線で活躍する必要はないので、自分というアイデンティティをもらった以上は、できる限り携わっていけたら嬉しいです。だから、これからの目標はベルの物語をしっかり終わらせるということと、新しい物語を書くというこのふたつ。ベルの物語が終わっても『ダンまち』の世界はまだまだ書くことがあると思うので、許される限りはダンまちの世界について書いていくということもあるかもしれませんね。その3つでしょうか。

――最後に、『ダンまち』のファンにメッセージを。

大森:『ダンまち』という作品を、応援し続けてくれてありがとうございます。感謝の気持ちでいっぱいです。本編に外伝、スピンオフも含めるともう44冊も出ていて、長いシリーズになってきているので、お付き合い頂けていることが私にとってすごく励みになります。本当にありがとうございます。皆さんの希望とか、そういった大仰な言葉ではありませんが、『ダンまち』が人生を楽しむ上での何かになってくれたら、とても幸せに思います。

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅤ』特報PV

■作品情報
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅤ』
©️大森藤ノ・SBクリエイティブ/ダンまち5製作委員会
公式サイト:https://danmachi.com
公式X(旧Twitter):@danmachi_anime
公式TikTok:danmachi_official
公式Instagram:danmachi_official

©Fujino Omori / SB Creative Corp.illustration:YASUDA SUZUHITO
原作10周年記念サイト:https://danmachi.com/10_projects/

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