杉野遥亮「大事なのは内面から何が出てくるか」 『どうする家康』榊原康政を生き抜いて
NHK大河ドラマ『どうする家康』が最終幕に突入している。主人公・徳川家康(松本潤)が白兎から狸へと変貌を遂げていく中、彼と同じように大きな変化をした人物が、徳川四天王の一人・榊原康政(小平太)だ。公式サイトの人物紹介欄にあるとおり、初登場時は「マイペースな貴公子」だった小平太も、今は徳川家臣団随一の知恵者・榊原康政として、家康にとってなくてはならない人物となった。大河ドラマ初出演となった杉野遥亮は、榊原康政としてどう役を生き抜いていったのか。
「松本(潤)さんを“家康だ”って思えた」
――榊原康政を演じる上でどんな準備をされましたか?
杉野遥亮(以下、杉野):史実を勉強したり、乗馬の練習をしましたが、現場に入りながら、見て感じて学ぶことが一番大きかったです。先日、榊原康政さんのお墓に行きました。多くの人が撮影が始まる前に行くと思うのですが、僕はなぜか怖くて行けなかったんです。もちろん行った方がいいとは思っていたんですけど、撮影が終わったタイミングでちょうど群馬の館林でお仕事する機会があり、その時にご挨拶に行きました。実際に実在した人物ですし、そんなに気楽に挨拶をしに行けるものではないなと思っていて。撮影当初は自信もなかったし、不安な気持ちもいっぱいありました。だけど、終わった時には、「いい仕事ができたな。ありがとうございました。お世話になりました」という気持ちがあって、お墓参りに行けました。
――演じてきた中で印象に残っているシーンは?
杉野:最終日のお芝居は楽しかったです。この役をどういうふうに表現していこうか考える1年間だったんですけど、最後は自由に楽しくお芝居ができて、この仕事が好きなんだと思えました。その時は本多忠勝(平八郎)役の山田(裕貴)くんとの芝居でしたけど、コミュニケーションを取りながらいいシーンを作り上げる醍醐味を感じられてよかったです。
――撮影が始まる前と今とでは、榊原康政への解釈の仕方も違いますか?
杉野:全然違います。最初の方は史実に囚われ過ぎていたところもありましたし、どういう人なのかの輪郭も終着点も見えていませんでした。でも、ある段階からは今の自分とリンクさせながら作っていくのが、今回の俺の小平太で康政だと考えが切り替わったんです。天真爛漫だけど、クールで文武両道とかそういったイメージがある康政に対して、こういう人と決めつけるのはもったいないなと。自分自身に対してもそう思っていたので、そこはリンクしていました。ただ、小平太を成長させていかなきゃいけないし、年齢の表現というのは自分なりに考えたりはしましたけど、どう見せるかよりも大事なのは内面から何が出てくるかだと。正直悔しい瞬間もいっぱいありました。でも、思い通りにいかない瞬間も、もしかしたら小平太にだってあったのかもしれないなと。そうやって自分とリンクさせていって、最終的に楽しく終われたのは良かったです。
――本多忠勝を演じる山田裕貴さんとは“平平コンビ”と呼ばれていました。
杉野:平八郎は小平太にとっての上司でもあるので、自分にどういうことができるのか、どういう立ち位置でいたらいいのかは考えていましたし、自分は常に平八郎を意識した小平太でいました。第44回の最後の2人での芝居は特に印象に残っています。平八郎のところに説得しに行く、気持ちを共有するという場面。お互い歳も取ったし、「老いにはあらがえん」と。でも、自分は正直まだ“ピチピチ”してるなって思って(笑)。この言葉をどうしたら説得力があるように言えるのか、試行錯誤をしながら、山田くんと一緒に協力して作れたと思っています。第7回の2人でナンパをしに行くシーンも“間”にこだわりました。現場にいて楽しいのはそういう瞬間なんですよ。誰かと本気でモノを作る熱が合った時で、山田くんとはそういう部分で共鳴できたんじゃないかなと思っています。
――家康を演じる松本潤さんとの共演はいかがでしたか?
杉野:小牧・長久手の戦いで殿とやり取りをしている辺りから、ヒリヒリする感覚がありました。演じる松本さんが何かを背負ってるように見えて、松本さんを見ていると、自分も自然と康政に入っていける感覚があって、助けていただきました。松本さんの存在そのものが、自分にとっては刺激になりました。これは自分の感覚の話で難しいのですが、途中から松本さんを“家康だ”って思えたんですね。それは瀬名(有村架純)が亡くなってからなんですけど。家康の存在感を松本さんが背負ってくださることは自分にとっては大きかったような気がしています。