『セクシー田中さん』は出会いの面白さを教えてくれる “特別”になりたいからこその辛さ

『セクシー田中さん』特別になりたいから辛い

「私にとっては田中さんが最高です。(中略)全部全部田中さんが魅力的だからですよ。だから背筋を曲げないで」

 人と人の出会いというのは面白い。互いに影響を及ぼし合って浸食し合い変化していく。それが双方向の場合もあれば、一方通行なケースもあって、誰かの一方通行な想いが、思いもよらぬちょっと離れた誰かに図らずしも伝播し変化を促したりする。

 皆、“好きな人”の「特別」になりたくって、振り向いてほしくって、だからこそ“ノーと言えない”対等じゃない関係が歪に形成されていく。

 『セクシー田中さん』(日本テレビ系)第5話では、そんな出会いの妙が描かれた。田中さん(木南晴夏)から既婚者・三好(安田顕)への恋心を知った笙野(毎熊克哉)は、まさかの行動に出る。田中さんが好きなものや人について知りたい、興味があるのだと三好にダラブッカの演奏を習い始める。

 小西(前田公輝)に不倫の何がいけないか聞かれても「常識的に」としか答えられない笙野が、自分の窮屈で近眼的な枠組みを、知らず知らずのうちにどんどん拡張させていく。笙野は田中さんとの出会いを通して自身の歪んだプライドを徐々に手放し、友人の小西からも「一生変わらないと思ってた」と言わしめる強固な価値観を更新していく。三好のことを「コンプレックスを刺激される存在」だと認め、自分がこれまで「ちゃんと人と関わってこなかった」事実に向き合う笙野は、本来の心根の優しさも相まって、ただただかわいげのある素直さが全面に押し出されていく。

 そんな笙野の変化感に目を見張りつつも、胸がチクリと痛む感覚を覚えてしまうのが朱里(生見愛瑠)だ。“人は本気になると誰かのために自分を変える努力をするらしい”ことを目の当たりにし、“私のために自分を変えてくれる人なんて一人もいなかった”と自分のこれまでと照らし合わせてしまう。これは負のループの始まりで、たとえ近くにいて応援している“推し”であっても、「田中さんにあって自分にないもの」が何なのか自身の粗探しを始めてしまう。若かりし頃ほどこの傾向が如実だと思うが、この思考は一度ハマってしまうと自分の足りないものにばかり目が向いてしまい自信を損なって、自己肯定感を下げてしまいかねない。

 「自分が自分についてきた小さな嘘が田中さん見てると突き刺さる」とは、朱里が小西に打ち明けた胸の内だが、この感覚は非常にリアルだ。友人だろうが身近な人だろうが、誰かが無自覚に当たり前に手にしているものの、自分には手に入れられっこないものを突き付けられると勝手に傷ついてしまうということは、誰しも経験したことがある痛みだろう。そのやるせなさを理不尽にも嫉妬や非難に変換し、その相手に向けてしまい、より一層自己嫌悪に陥ってしまうところまでがセットだったりもする。

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