『キングダム エクソダス〈脱出〉』日本初放送! ラース・フォン・トリアーを徹底解剖

ラース・フォン・トリアーを徹底解剖

 『キングダム』で描かれる得体の知れない恐怖、何かに取り憑かれたような人々、過激な表現は、フォン・トリアーの作品のエッセンスともいえるもの。今回放送・配信される監督特集の12作品にも、そういった要素がちりばめられている。作品を紹介する前に、フォン・トリアーがどういう人物なのか簡単に紹介しておこう。

 フォン・トリアーは1956年に公務員の両親のもとに生まれた。進歩的な考え方の持ち主だった両親は彼に一切しつけをせず、何事も自分で決めさせたという。フォン・トリアーは子供の頃から常識にとらわれず、何が良いことで悪いことなのか、全部自分で考えて生きてきた。周りの子供たちと違った倫理観。違った家庭環境で育ったことがフォン・トリアーの作品に大きな影響を与えたのだ。そして、11歳の時に母親に8ミリカメラを買ってもらって映画に夢中になる。名門のデンマーク映画学校で学んだフォン・トリアーは、在学中に製作した短編が2作続けてミュンヘン映画祭の短編賞を受賞した。そして、初長編作品『エレメント・オブ・クライム』(1984年)が、デンマークのアカデミー賞ともいえるデンマーク映画賞を受賞し、第37回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にも出品され、華々しいデビューを飾る。

『エレメント・オブ・クライム』©️1984 Liberator S.A.R.L.
『エレメント・オブ・クライム』©️1984 Liberator S.A.R.L.

 デビュー当初、フォン・トリアーがいかに才気走っていたのかは『エレメント・オブ・クライム』を観ればよくわかる。セピア色に統一した映像や作り込まれた世界観。そして、犯人を追いかける刑事が自分を見失っていく物語は、当時『ブレードランナー』(1982年)に例えられたりもした。第二次世界大戦後のドイツを舞台にした『ヨーロッパ』(1991年)では様々な映画的手法を駆使。モノクロの映像にパートカラーを入れるなど映像的なこだわりを極めた作品だ。この2本の間に撮った『エピデミック~伝染病』(1987年)ではフォン・トリアーが自身の役で出演。伝染病を題材にした映画を作ろうとしている時に実際に伝染病が広がり始め、世界の終わりが近づいていく。世界の終わりのイメージは、『キングダム エクソダス〈脱出〉』に至るまで何度もフォン・トリアーの作品に登場する。

 デビュー当時、フォン・トリアーはデンマーク映画界のエリートだったが、やがて才能は暴走しはじめる。作品ごとに過激さを増して、天才児は問題児になっていく。その分岐点に生み出されたのが『奇跡の海』(1996年)だ。半身不随になった恋人を愛するがゆえに、彼に命ぜられるままに男たちと関係を持つベス。その壮絶な愛の形を描いた本作で、フォン・トリアーは第49回カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞。ドグマ95の影響で映像が生々しくなるなか、過酷な運命に追いつめられるヒロインの苦難の物語は、アイスランドのミュージシャン、ビョークをヒロインに迎えたミュージカル『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)でさらに厳しさを増す。本作は第53回カンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞したが、衝撃的な結末は賛否両論を巻き起こした。この2作の間に制作された『イディオッツ』(1998年)はフォン・トリアーがドグマ95のルールを守って制作した唯一の作品だ。知的障害者のふりをして人々の偽善を暴く集団に惹かれていく女性を描き、乱行シーンも飛び出すとんでもない話だが、ヒロインのカレン演じたボディル・ヨルゲンセンは『キングダム エクソダス〈脱出〉』で同名の役を演じていて、フォン・トリアーのなかで繋がりがあるのかも知れない。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』©️ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, TRUST FILM SVENSKA, LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED, FRANCE 3 CIN●MA & ARTE FRANCE CIN●MA
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』©️ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, TRUST FILM SVENSKA, LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED, FRANCE 3 CIN●MA & ARTE FRANCE CIN●MA

 『奇跡の海』以降、才能が世界的に認められる一方で、フォン・トリアーは人間が抱えた闇を題材にして、観客の感情をかき乱して挑発し続ける。人間のエゴがむき出しになって社会が崩壊していく様子を演劇的な手法で描き出した『ドッグヴィル』(2003年)と『マンダレイ』(2005年)は、フォン・トリアーの闇が一番深かった頃の作品だ。「深淵を覗くものは深淵にも覗かれている」と哲学者のニーチェは書き残したが、闇を見すぎると闇に飲み込まれる。フォン・トリアーは闇に向かってカメラを向け続けた結果、うつ病を発症。病気と闘いながら映画を作り出していくこととなる。

 子供を失った夫婦の苦悩を描いた『アンチクライスト』(2009年)は、あまりの暴力描写に第62回カンヌ国際映画祭で失神者が続出。うつ病治療の体験からヒントを得た『メランコリア』(2011年)では巨大彗星を地球にぶつけ、色情狂の女性の半世紀を描いた『ニンフォマニアック Vol.1』(2013年)、『ニンフォマニアック Vol.2』(2013年)は、役者が劇中で実際に性行為をした。フォン・トリアーは自分で立ち上げた映画会社、ツェントローパで女性でも楽しめることを目的にしたポルノ映画を製作して成功を収めていて、著名な映画監督としては異例の「副業」を持っている。毎回、容赦なく登場人物を追い込み、タブーに挑み続けるフォン・トリアーを突き動かすものとは何なのか?

『ニンフォマニアック Vol.1[R15+指定版]』©️2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KOLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINEMA
『ニンフォマニアック Vol.1[R15+指定版]』 ©️2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KOLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINEMA

 両親に放任されて育ったフォン・トリアーは、子供の頃から自分が感じるままに社会を見つめてきた。そして、そこで感じた、愛とは? セックスとは? 信仰とは? 社会とは? といった様々な疑問を映画で徹底的に追求してきた。その際に社会のモラルや常識に一切忖度しないので過激と言われるのだが、作品のテーマに向けた眼差しには子供のような無垢さがある。無垢とは時に残酷なものだ。その眼差しでフォン・トリアーが追求してきたのは「人間って何?」ということに尽きるのかもしれない。フォン・トリアーの作品を観ること、それは人間の闇を覗くことでもあるのだ。闇に覗き込まれないように注意すべし。

■放送・配信情報
【ドラマ一挙放送・配信】
「伝説のカルトドラマが帰ってきた!『キングダム』シリーズ完全放送」
『キングダム 2Kレストア版』(全8話)
WOWOWプライムにて、11月11日(土)11:00~(字幕版)

『キングダム エクソダス〈脱出〉』(全5話)
WOWOWプライムにて、11月12日(日)11:00~(字幕版)
詳しくはこちら:https://www.wowow.co.jp/detail/189810

放送後WOWOWオンデマンドで配信
「伝説のカルトドラマが帰ってきた!『キングダム』シリーズ完全配信」
詳しくはこちら:https://wod.wowow.co.jp/browse/editorial/31087

【ドキュメンタリーも日本初・独占配信】
『キングダム エクソダス〈脱出〉の誕生』
WOWOWオンデマンドにて配信中!
詳しくはこちら:https://wod.wowow.co.jp/program/194691

「『キングダム』シリーズ完全放送記念!ラース・フォン・トリアー監督特集」(全12作品)・(字幕版)
WOWOWシネマにて、11月6日(月)~13日(月)放送
WOWOWオンデマンドにて、11月1日(水)より先行配信
詳しくはこちら:https://www.wowow.co.jp/special/020665

【作品一覧】
『エレメント・オブ・クライム』
『エピデミック~伝染病』
『ヨーロッパ』
『奇跡の海(1996)』
『イディオッツ』
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
『ドッグヴィル』
『マンダレイ[R15+指定版]』
『アンチクライスト[R15+指定版]』
『メランコリア』
『ニンフォマニアック Vol.1[R15+指定版]』
『ニンフォマニアック Vol.2[R15+指定版]』

全作品WOWOWオンデマンドで配信中
→完走を目指せ!鬼才ラース・フォン・トリアー フルマラソン!
https://wod.wowow.co.jp/browse/editorial/31088

【プレゼントが当たる!】「ラース・フォン・トリアー フルマラソン」開催中
https://www.wowow.co.jp/plusw/present.php?p_id=8080

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