『キングダム エクソダス〈脱出〉』日本初放送! ラース・フォン・トリアーを徹底解剖
作品を発表するごとに物議を醸し出しながらも、数々の映画賞を受賞してきたデンマークの映画監督、ラース・フォン・トリアー。観客に忘れられない感動とトラウマを与える、巨匠にして問題児の代表作がWOWOWで一挙放送・配信される。フォン・トリアーの作品はどれも観客の心に爪痕を残す問題作ばかりだが、なかでも注目したいのは伝説のテレビシリーズ『キングダム』全話に加えて、完結編『キングダム エクソダス〈脱出〉』が日本初放送・順次配信されることだ。『キングダム』は1994年にファーストシーズンが4話、1997年にセカンドシーズンが4話放送され、デンマークで視聴率50%を超える大ヒットを記録した。日本では映画用に編集されて公開。DVD化もされたが、長らく廃盤状態になって観ることができなかった幻の作品なのだ。
物語の舞台は「キングダム(王国)」と呼ばれるデンマーク国立病院。そこでは様々な医師が働いている。デンマークを忌み嫌っているスウェーデン出身の主任医師、ヘルマー。病院内に秘密の部屋を持ち、影で暗躍するクロウスホイ。片思いしている看護婦に死体の首をプレゼントする変人、モッゲなど、彼らは患者より自分のことを最優先する。そこにやって来たのは、仮病を使って入院するのが好きなドルッセ夫人。降霊術が趣味の夫人はエレベーターで少女の霊の声を聞き、その正体を探っていくうちに病院に次々と異変が起こり始める。
自分勝手な医師たちが繰り広げる笑いと、少女の霊をめぐる恐怖。それが絶妙のバランスでブレンドされているのが『キングダム』の面白さだ。麻酔が効かない患者に催眠術を使ったり、どうしても手に入れたい癌患者の肝臓を自分に移植しようとしたりと、不謹慎な笑いのなかで不気味なゴーストストーリーが展開される。シリーズ後半からは、呪われた赤ちゃんや人間をゾンビにするハイチの秘薬など、どんどんとんでもない展開になっていく。
映像や演出にもフォン・トリアーらしさが光っている。フォン・トリアーは1995年に、仲間の監督たちと「ドグマ95」という映画作りのルールを設定した。撮影はすべてロケーション。カメラは手持ちなど、10の規則を定めてリアルな映画作りを目指したが、『キングダム』にはドグマ95の影響が出ていて、ドキュメンタリータッチの映像が笑いと恐怖の濃度を高めている。
好評を得た『キングダム』はサードシーズンも企画されたが、主要キャストが亡くなったことで保留状態になっていた。ところが、2020年に完結編の制作が発表され、2022年に全5話からなる『キングダム エクソダス〈脱出〉』が完成する。舞台はもちろん「キングダム」だ。過去の事件をフォン・トリアーがドラマ化したために病院は観光スポットになっていた。そこにスウェーデンからヘルマーの息子、ヘルマー・ジュニアがやってくる。彼を迎えるのは冷凍豆をこよなく愛するポントピダンや誰に対しても牙を剝くネイヴァーなど多彩な新キャラたち。そして、ドルッセ夫人の跡を継いで病院の秘密を探るのは夢遊病患者のカレンだ。さらにオリジナルキャストも合流。たっぷり時間をかけて練り上げた新作だけに、これまで以上に様々なアイデアが詰め込まれて、一本の映画のように完成度が高い。
今回、『キングダム エクソダス〈脱出〉』の舞台裏を紹介したドキュメンタリー番組『キングダム エクソダス〈脱出〉の誕生』も配信限定で日本初公開されるが、これも必見だ。キャスト全員が「話が理解できない」と首を傾げながらも、実に楽しそうに撮影している様子が『キングダム』の魅力を表している。本作によるとフォン・トリアーはリハーサルを一切せず、毎回ぶっつけ本番で撮影するらしいが、そこで生まれる役者の生の反応が作品の独特の空気感を生み出しているのだろう。フォン・トリアーが持つ強烈な毒気が笑いに転換されている『キングダム』は他の作品よりも見やすくなっていて、これまでフォン・トリアーを敬遠してきた人にも是非観ていただきたいシリーズだ。