岡本信彦が語る、『グッド・ドクター 』ショーン役への思い ドラマとアニメの演技の違いも
天才的な能力を持つ自閉症でサヴァン症候群の青年がドクターとして成長していく姿を描く人気ドラマ『グッド・ドクター 名医の条件』。WOWOWにて10月25日よりシーズン6が放送・配信となる。そんな今作の主人公ショーン・マーフィーの日本語吹き替えを長年担当している声優の岡本信彦は、「シーズン6までのあいだに積み上げてきたものがある」と語る。そんな岡本に『グッド・ドクター』シリーズの魅力、ショーン役への思い、アニメ作品と実写ドラマ作品の仕事の違いについて話を聞いた。
意識したのは「自分の中で完結させるようなしゃべり方」
――『グッド・ドクター 名医の条件』は、もともとオリジナル版が韓国で作られ、その後アメリカや日本でもリメイク版が作られるなど、世界的にも人気の作品です。
岡本信彦(以下、岡本):そうですね。オリジナルの韓国版、日本版、そしてこのアメリカ版の3つそれぞれの内容が、全部少しずつ視点が違うところも面白いですよね。オリジナルの韓国版は、どちらかというと恋愛をベースにしていて、日本版は小児科というところにスポットを当てていて、僕が声を当てているアメリカ版のほうは、もう完全に外科医の話なので。だから、生死に関わる話がすごく多いんです。そこに、アメリカ版ならではのドラマ性が生まれているような気がします。
――そんなアメリカ版も、シーズン6に突入していて。今では、オリジナルの韓国版よりも、長いシリーズになっています。
岡本:そうなんですよね。いつの間にか、その前に僕が吹き替えを担当させてもらった『ベイツ・モーテル』(5シーズン/全50話)よりも長いドラマになっていたので、ちょっとビックリしました(笑)。
――(笑)。岡本さんは、その『ベイツ・モーテル』から引き続き、主演のフレディ・ハイモアの吹き替えを、この『グッド・ドクター』でも担当されているわけですが、岡本さんと言えば、アニメの世界では、『僕のヒーローアカデミア』の「爆豪勝己」役などが有名です。
岡本:いろんな役をやらせてもらっていますけど、どちらかと言えば荒々しいキャラクターのほうが多いイメージがありますよね(笑)。
――『鬼滅の刃』の「不死川玄弥」役とかも。
岡本:ずっと怒っているようなキャラクターでしたよね(笑)。そのあたりは、自分でもちょっと不思議な感じがしていて……親にも言われるんですよ。「何で怒っている役が多いの?」って(笑)。普段は全然その要素がないというか、僕、ほとんど怒ることがないので。
――そうなんですね。ただ、そういった役柄の印象からすると、『グッド・ドクター』の主人公であるショーン・マーフィーは、少し意外な気もします。
岡本:確かにそうですよね。ただ、そのあたりは、『ベイツ・モーテル』からの流れもあったのかもしれないです。同じフレディ・ハイモアが出演しているドラマということで、最初にお声掛けいただいて。というか、『ベイツ・モーテル』のフレディ・ハイモアは、どちらかというと、そっち系の役だったんですよね。
――『ベイツ・モーテル』は、映画『サイコ』の前日譚を描く話でした。
岡本:そうなんですよ。映画『サイコ』の前日譚的な位置付けのドラマシリーズで、僕が声を担当したノーマン・ベイツという人物は、脳内にお母さんが現れると、急に怒ったり、衝動的に殺人を犯したりするようなキャラクターで。その役を演じていたフレディ・ハイモアが、そのあとに出演したドラマが『グッド・ドクター』だったんですよね。だから、その流れみたいなものもきっとあったのかもしれないです。
――なるほど。フレディ・ハイモア繋がりだったんですね。とはいえ、最初に『グッド・ドクター』を観たときは、戸惑ったところもあったのでは?
岡本:すごく戸惑いました(笑)。『ベイツ・モーテル』とはあまりにも違う役柄だったので。いちばんビックリしたのは、自閉症でサヴァン症候群という、ある意味天才の男の子役だったところで……。
――『グッド・ドクター』シリーズの肝なところですね。
岡本:そうなんです。だから、それをどう演じていくかが、いちばん難しかったですね。吹替版演出の高橋剛さんとも、最初にいろいろな話をして、それをプラスに捉えられるような感じがいいよねということになったんです。自閉症だったりサヴァン症候群だったりを、ひとつの個性として捉えてもらえるようなキャラクターにしたいなと。だから、どうやったら、このショーン・マーフィーという人物が魅力的に映るのかっていうのは、いろいろ考えながらお芝居をさせてもらっていて。ただ、どことなくの違和感だったり未知の部分というか、今までしゃべったことがないような男の子だなって思わせるような部分も、やっぱり出したくて。その2つをどう共存させながら作り上げていくのかは、かなり考えながら演じていました。
――なるほど。
岡本:特にシーズン1は、ショーン自身も若かったというか、最初は研修医だったので。だから、ある種の天才というか、医学に関する膨大な知識はあるのかもしれないけど、実際医療の現場に立った経験は、まだ少なかったんです。あと、最初の頃は、まわりの人とのコミュニケーションも、そこまでうまくできないところがあって。ショーンの保護者であり恩師であるグラスマン先生(リチャード・シフ/岩崎ひろし)ぐらいしか、普通に会話できない設定だったんですよね。だから、最初の頃は、とにかく自分の中で完結させるしゃべり方っていうのを意識して。自問自答じゃないですけど、自分の中での確認作業みたいな感じで専門用語をブツブツ言うんですが、別にそれが誰かに聞こえなくてもいいみたいな感じというか。そうやって、誰に言っているわけでもなく、自分の中で完結させるようなしゃべり方を意識しながら演じていました。
――ある意味、通常のアプローチとは真逆というか。
岡本:そうですね。でも、今はもうそれとはちょっと違いまして、紆余曲折ありましたけど、いろんな人と出会って、いろんなコミュニケーションを勉強して、昔だったら気にせず言っていたことも、今は言うのを控えるようにしていたり、まわりとのコミュニケーションの輪が広がっているような感じがあって。単純に、成長したなって思います(笑)。
――とはいえ、言わなくてもいいことをまだ言っているような感じはありますね(笑)。
岡本:そうですね(笑)。それはちょっと、ときどき言ってしまったりするんですけど、最初の頃のように、患者さんに向かって「あなたは、もうすぐ死にます」みたいなことは言わなくなっているので(笑)。そこはやっぱり、このシーズン6までのあいだに積み上げてきたものがあると思います。ただ、これは僕の意見なんですけど、そういうショーンの「歯に衣着せない物言い」みたいなものが、逆に信用できるというか、信頼できる医者の証なのかなって思うようなところもあって。実際、最近のシーズンになってくると、その噂を聞きつけて、遠くから患者さんがわざわざやってきたりするようになっているんです。何事にも率直なショーンだからこそ、是非彼に執刀してもらいたい、みたいな。その気持ちは僕もすごくよくわかるというか、僕も自分の身体に不調があったら、きっとショーンみたいにはっきり言ってくれるタイプの医者を選ぶと思うんです。