『ブギウギ』が踏襲していない、朝ドラのフォーマット “異形”の構成が物語る人生のリアル

『ブギウギ』異形の構成が物語る人生のリアル

 世間ではしばしば「目に入れても痛くないほど孫が可愛い」などという言葉が語られ、朝ドラでも祖父と孫、祖母と孫の名シーンは数知れない。しかし、「孫よりも、子のほうが可愛い」という、偽らざる本音をはっきりと登場人物に言わせた朝ドラも珍しいのではないだろうか。そしてこのトシのシーンには、本作の大きなテーマのひとつである「母と娘」の“土台”ともいうべきキーワードが散りばめられていた。

『ブギウギ』第22話大西トシ(三林京子)、大西タカ(西村亜矢子)、大西ヒデオ(湯浅崇)。 ツヤの実家にて。帰って来たスズ子を見守るトシたち。

 かつて、梅吉(柳葉敏郎)と駆け落ちして家を飛び出したツヤを、武一を出産しに里帰りしたときには温かく迎え入れたトシ。さらにはツヤの幼なじみで、奉公先の後継ぎとの間に婚外子であるスズ子を授かり、実家を勘当されたキヌ(中越典子)まで受け入れ、2人一緒に面倒を見て、産婆を呼んで出産させてやる。わずか3話の「香川編」なれど、トシの愛情深い「肝っ玉母ちゃん」ぶりが手に取るようにわかる。

 トシの「愛情のバトン」はツヤへと受け継がれ、それは確実にスズ子にも渡されている。第1話冒頭で示された、シングルマザーとなるスズ子の「その後」。きっとこの「愛情のバトン」は、スズ子からその娘・アイ子へも引き継がれていくことだろう。

 長い間会っていなくても、トシは母親だからツヤの本心がわかる。だからツヤの気持ちに寄り添って、スズ子を本当の孫だと思って可愛がる。この「母娘だからこその以心伝心」が、香川から大阪に帰ったスズ子と、迎えるツヤの表情にも宿っていたように思う。はな湯の暖簾をくぐった瞬間のスズ子の表情を見て、もしかしたらツヤは全て悟ったのかもしれない。けれども、スズ子の口から何か言ってくるまでは、自分からは一切何も言わない。心の中でそう誓った表情にも見えた。何事もさらけ出せばいい、ぶっちゃければいいというものではない。朝ドラは、そして人生は「スカッとジャパン」じゃないのだ。

 これまでの2人の姿から、ツヤもスズ子も母娘の絆に一末の不安も持っていないことが伝わる。けれど、もしスズ子の生母の存在を一度でもどちらかが口にしてしまったら、「何かが壊れてしまいそうで怖い」という同じ思いに、2人して囚われているのではなかろうか。そしてツヤの、スズ子への尽きせぬ愛情に、耳かき一杯分のエゴが混ざっているのがまた人間らしく、苦くて、『ブギウギ』らしい。

 愛ゆえにスズ子に事実を話さなかったツヤの気持ちがわかるからこそ、スズ子も同じ行動をとった。香川で見聞きしたことを胸の中にしまい、六郎との2人だけの秘密にした。

『ブギウギ』左から、西野キヌ(中越典子)、福来スズ子(趣里)。 キヌの家・表にて。キヌからある物を渡されるスズ子。

 スズ子の心から一生消えないであろう、生母・キヌとの別れのシーンも圧巻だった。浅黒く日焼けした農婦の手が、父親の形見である懐中時計をスズ子に握らせる。その手にキヌの20年間が詰まっていた。「うちアホやから、こんなことぐらいしか考えられんけん」。不格好で丸裸の、母親の愛情。こちらの「母と娘」の物語も、スズ子の心の中に一生残ることだろう。『こころ』(2003年度前期)で猪突猛進なヒロインを演じてから20年、わずか数シーンで強烈な爪痕を残す俳優となった中越典子の名演に痺れた。

 こうして、自分のルーツにまつわる「2人の母の人生」を知り、同期のリリー(清水くるみ)が言う「ドラマチックな休暇」の何百倍も劇的な香川来訪を終えたスズ子。休み明けには稽古場に早入りして、いつものように雑巾掛けをしながら歌を歌う。自分を励ますように、奮い立たせるように。きっと、これが福来スズ子の原点なのだ。何があっても稽古と本番は続く。喜びも悲しみも苦しみもすべて胸に抱いて、この先もスズ子はステージに立ち、歌い、踊るのだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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