『PLUTO』がいま映像化された意義とは? 丸山正雄Pが受け継いだ手塚治虫のDNA

『PLUTO』がいま映像化された意義とは?

Netflixの配信シリーズだからこそできること

ーー現在のスタイルに固まるまでは、紆余曲折があったそうですが?

丸山:最初、僕は2時間か4時間の劇場映画として作りたいとお伝えしたのですが、浦沢さんは「ダメ」とは言わないんですよ。「やれるものならやってください」「僕の描いたものより面白ければいいですよ」って言うんですけど、そんなもの、できるわけないんですよね。

ーー漫画の完成度が高すぎると、逆に映像化が大変ですね。

丸山:ホント、難しかったですね。手塚さんの『地上最大のロボット』をリメイクするというプレッシャーに、浦沢さんはものすごく苦しまれたので「君らもアニメ化する時は苦しみなさい」と言われましたが、十分苦しませていただいたという気持ちです。

ーー浦沢先生が手塚作品と戦ったように、今度は丸山さんたちが漫画の『PLUTO』と戦わなくてはいけなくなったわけですね。では、アニメ化するにあたって、どのようなことを心がけたのでしょうか?

丸山:映像に関しては、原作を越えたいという気持ちはありましたが、ストーリーに関しては、原作を超えたいという意識はありませんでした。そのかわり、時系列や各登場人物の位置関係をわかりやすくすることで、原作の意図をしっかりと伝えたいと思いました。ですので、アニメ版の方の方が、原作よりも少しだけわかりやすくなっていると思います。

ーー今回は全8話で、1話が約1時間という長尺ですね。

丸山:普通ならありえないですよね。最初は2〜4時間の劇場映画にしようと構成をいじっていたのですがうまくまとまらず、そのままやるべきだと考え方を改め、原作の良さをそのまま再現したい思いました。その時に、一番悩んだのが1話あたりの時間ですが、いろいろ悩んだ末に、1時間が一番いいと思いました。TVアニメの1話30分の作品に慣れていると1時間はちょっと長めでそれを8本も観るというのはすごくハードですね。でも、その長さにあえて挑戦するので、観る人にも挑戦してほしい。8時間耐えられた人は最後に泣けます。というのが今回、僕がつけたキャッチフレーズです(笑)。

ーー長さはあまり気にならなかったです。Netflixで全話配信されたドラマを観た時のテンションで一気に観ました。

丸山:そこは狙ったわけではないのですが、僕自身も海外ドラマが好きなものもあるし、Netflixのドラマでは『全裸監督』と『サンクチュアリ -聖域-』は感動しましたから、ああいうノリになんとかできないものかと、考えていた部分はあります。

ーーNetflixだからこそ、この形式に落ち着いたということですか?

丸山:もちろんそうです。1時間を8話作るというバジェットは、スケジュール的にもTVアニメではあり得ない話です。今回は、Netflixで配信するというラッキーな出会いがあったので、やっと完成させることができました。『PLUTO』を制作する上で一番理想の形を考えると1時間枠。それもぴったりでなく58分でも通る61分でもOKというのが理想でした。

ーー放送時間の自由度は、配信ならではですね。

丸山:途中でCMが入るTVシリーズだと、その枠に当てはめるために、内容を少し落としたり、逆に余計なものを足したりせざるを得ないのですが、Netflixは違いました。原作を映像化する上では「こうあるべき」という理想的な型を実現できました。放送枠はありつつも厳密さにはこだわらず、内容優先で考えることができる作り方は、新しい映像展開を追求できたと思います。

ーーやりきったという感じですか?

丸山:今の日本のアニメーションの現状と、我々の制作能力、僕自身の気力体力を考えると「やりきった」と言ってもいいんじゃないかと思います。ただ、人間は欲がありますから「もうちょっと、こうしたい」とか「次はこうしたい」といった気持ちはなくはないですけれども、最後はヘトヘトだったので「これでいいか」っていう感じです。僕自身の体力を考えると、最後の挑戦になるのかなぁ。

手塚治虫から受け継いだもの

ーー少し話が変わりますが、昨年、生前葬を行われたそうですね。出席された方の感想を読むと、とても楽しそうな感じでした。

丸山:生前葬は80歳の時にやろうと考えていたのですが、コロナ禍の影響でできなかったので、81歳の時に行いました。あまり、死に顔を見られたくなかったですし、もうダメだとなった時にご挨拶するよりは、元気なうちに馬鹿騒ぎしたかったんです。陽気なものが好きなので、死んでからお花をくれるのなら、今のうちに団子をくださいという「花より団子」の精神ですね。みんなでどんちゃん騒ぎをしておいしいものを食べて歌を歌う賑やかなものとなりました。

丸山正雄プロデューサー

ーー今回の『PLUTO』は手塚作品のリメイクでしたが、最後に手塚先生に対する思いを聞かせてください。

丸山:僕が業界に入って、最初の2年くらいは虫プロで手塚先生といっしょに仕事を色々やったので、身内という気持ちなんですよね。特に出来の悪い人が好きなんだ。あの人は。僕は出来が悪かったので、やたらとかわいがってもらいました。手塚先生とはいろいろお付き合いできて、その経験があったから、今もアニメーションをやっている。漫画家・手塚治虫の凄さは、レパートリーの広さで、ホラーもエロも社会的な作品もなんでも描いてしまうし、来た仕事はみんな受けてしまい、喜びながらも苦しんでいました。そんな手塚先生のやり方を見ていたから、僕もアニメーションをやる時はスタイルをほとんど気にしていない。どんな作品でも面白がってやっちゃうのは、やっぱり手塚先生のDNAの隅っこを少しいただいたのかなぁと思います。手塚作品とつながる『PLUTO』をやる機会もいただけたのだから、良い人生だったなぁ。生前葬もやったし、いつでも「お迎えいらっしゃい」という気持ちです。

ーーそうおっしゃらずに。『BILLY BAT』や『あさドラ!』など、まだアニメ化されていない浦沢さんの作品もありますし(笑)。

丸山:勘弁して(笑)。『20世紀少年』をやってくださいとか、誰も言わないでください。

■配信情報
Netflixシリーズ『PLUTO』
Netflixにて独占配信中
エグゼクティブプロデューサー:丸山正雄、真木太郎、山野裕史
監督:河口俊夫
キャラクターデザイン:藤田しげる
クリエイティブアドバイザー:浦沢直樹
CGI演出・特殊撮影:宮田崇弘
撮影監督:佐藤光洋
音響監督:三間雅文
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:スタジオM2
制作プロデュース:ジェンコ
キャスト:藤真秀、日笠陽子、鈴木みのり、安元洋貴、山寺宏一、木内秀信、小山力也、宮野真守、関俊彦
原作:『PLUTO』(浦沢直樹×手塚治虫、長崎尚志プロデュース、監修:手塚眞、協力:手塚プロダクション(小学館 ビッグコミックス刊))
公式サイト:https://pluto-anime.com
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/pluto_anime_

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