『パーフェクトブルー』は今こそ観るべき! 今敏監督の練りに練られた演出の妙味

『パーフェクトブルー』は今こそ観るべき一作

 今から25年前に公開されたアニメーション映画『パーフェクトブルー』(1997年)。監督の今敏(こん・さとし)が本作に続いて発表した長編アニメ映画『千年女優』(2001年)や『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)などは海外の映画祭でも注目されて数々の受賞を果たし、夢と現実の境界線が曖昧になって行く悪夢の映画『パプリカ』(2006年)は、ハリウッド映画に影響を与えるほどの作品となった。

 今監督は残念ながら46歳という若さで世を去っているが、アニメ界に残した作品の数々は今なお愛され続けている。商業デビュー映画『パーフェクトブルー』は4Kリマスター版が制作され、2023年9月に期間限定ながら全国45館で公開された。この4K版リバイバルで『パーフェクトブルー』を初めて観た、という人もいるだろう。この機会に作品を紐解いていきたい。

©1997MADHOUSE

 3人組のアイドルグループ「CHAM(チャム)」でセンターを務める霧越未麻は、所属事務所の意向で女優への転身を勧められる。未麻のマネージャー日高ルミは猛反対するものの、未麻は仕方なくそれを受け入れ、イベント会場に集まったファンの前で「CHAM」からの卒業宣言をする。

 しかし未麻の所へ来るオファーはドラマの端役や裸になる仕事ばかり。本心ではやりたくないが、ゴネれば周囲に迷惑がかかると気をつかってしまう未麻は、本意ではない仕事を続けるうちにストレスを溜めて行く(ように見える)。部屋のFAXには新聞の切り貼りで作られた「裏切り者」という脅迫状のような用紙が送信され、アイドル活動を辞めた未麻を許せない者の存在を匂わせる。そんな中、彼女の周辺で傷害事件や殺人事件が続く。それはあたかも、アイドルとして輝いていた未麻を汚した関係者への制裁のように……。これが『パーフェクトブルー』の大筋だ。

©1997MADHOUSE

 『パーフェクトブルー』は当初、OVA(オリジナルビデオアニメ)作品として制作費1億円、尺は70分で原画枚数は2万枚程度という見積のもとにスタートした企画であった(DVDオーディオコメンタリーの今監督の談話より)。結果的に動画枚数は3万枚、尺は81分に膨れ上がったが、あくまでビデオアニメ作品として制作を続けていた関係で、大勢の人間が映るモブシーンでは、画面奥の方にいる人々の顔を描いていないなど、一部はテレビサイズ相応の作画である。劇中劇の体裁で、ストリッパー役の未麻が興奮した男性客にレイプされる場面があるのだが、これもレンタル店で手に取ってもらうためのフックとして刺激的な要素を入れなければ、という制作側の意向で設けられた描写だ。

 公開10年後のメイキング映像の中で今監督は、この暴行場面を「ちょっとやり過ぎてしまった」と反省している。確かに本作以降の、今監督の劇場用作品群と観比べれば、ビデオ向け作品を想定していたらしき粗はあるのだが、それでも練りに練られた演出の妙味と、デビュー作とは思えないストーリーテラーぶりには舌を巻く。

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