原菜乃華の成長が止まらない! 主演作『こむぎの満腹記』は“代表作”としてシリーズ化も?
原菜乃華がおいしそうにごはんを食べている姿を映しているだけで、十分すぎるぐらいドラマが成立する。なんという天才的な発見だろうか。ちょうど夏ドラマから秋ドラマへと改編される間のタイミングにテレビ東京系の「ドラマ25」枠で2週にわたって放送された『こむぎの満腹記』は、原が演じる女子大生・橘こむぎが、大好きな小麦料理を求めて群馬県の高崎市でひたすら食べ歩きをするという、いわゆる“ご当地ドラマ”であった。
友人とのカフェ巡りの帰りにラーメン屋に駆け込む一連の流れだけで、このこむぎというキャラクターの特徴が的確にとらえられる。そして友人からもらったラスクが高崎で作られていることを知り、東京から高崎への遠征を決意。前編では焼きまんじゅうやこんにゃくアイスという定番の群馬名物を食べ、後編ではオランダコロッケやみそバンズパンといったよりローカルな名物へと攻め込み、どちらの回も終盤にはがっつりとしたパスタ料理をぺろりとたいらげる。
企画・原案を務めた畑中翔太は、これまでも『農家のミカタ』(テレビ東京系)や『旅するサンドイッチ』(テレビ東京系)と、高崎市とのタッグでご当地ドラマを手掛けてきた。その前2作と今作で明らかに異なっているのは、一般的なご当地ドラマにありがちな地域性アピール重視のストーリーテリングではなく、テレビ東京の深夜枠における定番ジャンルである“飯テロドラマ”としての空気感をより強く押し出したところにあるのではないだろうか。
ひとつの町を舞台に、その場所の名物を食べる。主人公の心のなかがモノローグとしてさらけ出されるつくりも含め、さながら高崎市全体を使った『孤独のグルメ』(テレビ東京系)といったところか。もっとも『孤独のグルメ』は主人公が仕事で訪れた町で気になった飲食店を見つけ、そこで気になった料理を次々と頼むというある種の偶然の出会いに重きが置かれているわけだが、この『こむぎの満腹記』の場合は、あらかじめ食べるもののジャンルなど方向性が定められたうえで、出された名物のインパクトに驚きを見出していく。そこで表出されるさりげない偶然性が“ご当地ドラマ”であるという軸を与え、ご当地×飯テロの軽妙なハイブリッドを実現させるのだろう。
その結果として、これはおそらく高崎以外の場所でも実現できるであろうと汎用性が生まれ、2話完結では飽きたらぬような空腹感を与えてくれる。畑中が手掛けた飯テロドラマのひとつ『絶メシロード』(テレビ東京系)も、元を辿れば高崎からスタートしたローカルグルメサイトが全国へと拡大していったわけで、これは日本中のいたるところにある、それこそ“粉もん”から“丸亀シェイクうどん”までさまざまな小麦料理を探訪する持続性のある企画にもなりうるはずだ。