ポレポレ東中野編成担当に聞くドキュメンタリー映画の動向 「世の中を豊かにしている」

ポレポレ東中野に聞くドキュメンタリーの動向

 東中野のミニシアター「ポレポレ東中野」は、ドキュメンタリー映画好きにとって特別な場所である。この映画館は、全国でも珍しくドキュメンタリー映画を中心に上映を編成している。前身のBOX東中野(以下、BOX)時代からその姿勢は一貫しており、単館上映から人気に火をつけ大きなヒットを生み出すこともある。デジタル化によってドキュメンタリー映画の制作は容易になり、飛躍的に作品が増大した結果、ドキュメンタリー映画はますます社会の隅々まで映し出すようになってきただろう。そんなドキュメンタリー映画の上映を続けてきた、同館の編成担当である石川翔平氏に、ドキュメンタリー映画の魅力と近年の傾向、市場の動向などについて聞いた。

ドキュメンタリーにしかない没入感

――石川さんがポレポレ東中野の編成担当になったのはいつのことですか?

石川翔平(以下、石川):編成に関わるようになったのは2007年からです。2005年にアルバイトとしてポレポレで働き始めたんですが、僕が入ってすぐの頃に、佐藤真監督の『阿賀の記憶』公開記念のオールナイト特集があったんです。それがすごい刺激的で、たとえば、牛腸茂雄(写真家)の撮った8ミリ映像に佐藤真さん自身の撮影した映像を重ねて上映するなどすごいことをしていて。そういうのを観て、「映画館は面白い」「企画をやりたい」と思っていたところ、2007年に声をかけてもらいました。

――石川さんが編成になる以前から、ポレポレ東中野さんではドキュメンタリーを上映していますね。ポレポレ東中野はなぜドキュメンタリーにこだわるのでしょうか?

石川:代表の大槻(貴宏)が決めたことだと思いますが、前身のBOX東中野のカラーを引き継ごうということだと思います。BOX時代とは運営会社も別ですし、スタッフも一新されていますが、やはり東中野にあるミニシアターに期待されているのは、ドキュメンタリーだろうし、お客さんはそれを期待している。そのブランドはある種の財産だから、まずはドキュメンタリーを柱にしたのだろうと思います。

――編成する上で大事にしていることはありますか?

石川:よく大槻と話すのは、「結局は人だよね」ということ。作品がすごく面白いから絶対やりたいというのは、年に何本もあるわけじゃないので、その中でどんな基準で上映作品を決めるかというと、作り手や配給・宣伝の人などに、この映画を広めたいという気持ちを感じるかどうかだったり、そういう基本的なことを大事にしています。あとは、他の大きなターミナル駅にある劇場とは違い、何かのついでに映画を観るということはなく、東中野にわざわざ来てもらうには、他で上映しているものをやってもなかなか難しいと思っています。ここ数年は、他劇場とうちで同時に封切る作品もありますけど。

――石川さんは、ドキュメンタリー映画の面白さはどこにあると思いますか?

石川:自分では見られない世界が見られるということです。わかりやすいもので言うと潜入ものとか、すごい山奥で生活している人とか、なかなかアクセスできない世界を見せてくれる。普通に生活していたら滅多にお目にかかれないものに出会えるというのは、すごくエキサイティングです。題材の面白さも絶対あると思うんです。佐村河内守を撮ったと聞いたら観たくなりますし、ヤクザの組員に密着した作品などはやはり興味を惹かれますよね。ただ、そういった派手な被写体だけが大事というわけではなく、一見地味そうな題材でも感じたことのない感情とか、想像もし得ない状況に置かれた人物とか、思いもよらない世界に連れて行ってくれるものがあるんです。個人的にドキュメンタリー作品にしかない魅力は、特に説明のない作品で、自分が一体何を観ているのかわからないまま時間が過ぎていくのに、だんだんと状況や人間関係がわかってくる時の没入感です。あの感覚はドキュメンタリー独特のものだと思います。

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