『FAKE』はなぜヒットした? 配給会社・東風代表が語る、ドキュメンタリー映画の面白さと難しさ

東風代表・木下繁貴氏インタビュー
P1230198th.jpg
木下繁貴氏。メイン写真は『FAKE』より

 佐村河内守のドキュメンタリー映画『FAKE』が、その反響を受けてユーロライブで拡大公開されるなど、非常に好調だ。同作を配給したのは、『平成ジレンマ』や『ヤクザと憲法』といった刺激的なドキュメンタリー映画を多数手がけている合同会社東風。スペースシャワーTVの高根順次プロデューサーによるインタビュー連載「映画業界のキーマン直撃!!」第6回では、同社の代表であり、『FAKE』のプロデューサーとしても名を連ねる木下繁貴氏に、その製作裏話や会社立ち上げの経緯、ドキュメンタリー映画を配給する上での苦労や覚悟について、詳しく話を聞いた。(編集部)

「『FAKE』は、ネタバレしたとしても力を失う作品ではない」

高根:『FAKE』では衝撃的なラストシーンが大きな話題となっています。あくまで個人的な感想ですが、結末ありきでドキュメンタリーを組み立てているのかと感じるほど、見事なラストシーンでした。

木下:わたしもプロデューサーとして名前を入れさせていただいていますが、作品の制作に関しては今回、ドキュメンタリージャパンのプロデューサーの橋本佳子さんが主に関わっています。最後にどうすればこの作品を終わらせることができるのかは、かなり迷いながら作っているようでした。2014年の9月から撮影を開始して、弊社が関わり始めたのが2015年の2〜3月あたりで、当初は2015年の初夏あたりまでには作品を完成させる予定でした。ただ、映画的には非常に重要なシーンが幾つか撮れていたものの、どうやって作品を完成させるかはなかなか定まらず、結局今年の1月までかかってしまいました。だからラストは、ようやくたどり着いた結末であって、決して予定調和だったわけではありません。あのシーンを観たときは、ようやく作品が完成したんだと思ったので、すごく嬉しかったですね。

高根:宣伝でも、ラスト12分をクローズアップしていますね。その辺りは東風の提案でしょうか?

木下:ええ、『FAKE』はミステリー映画のように観ることもできるので、そこをクローズアップしました。森監督も、ラストを知らないで観てもらった方が楽しめるという考え方なので、こういうかたちで宣伝をしています。ただ、ネタバレしたとしても力を失う作品ではないので、たとえばネットなどで結末を知ってしまったお客さんが「もうわかったからいいや」となってしまうと残念だなと。そういう意味では、リスクのある宣伝の仕方だったと思います。

高根:町山智浩さんが公開前にラジオで、本作について「はっきり言います、ヤラセです」と仰ったときは、どう感じましたか。

木下:まあ、一瞬焦りました(笑)。一般的な“ヤラセ”という言葉のイメージから、いわゆる出来レース的なことが本作で行われていると思われると、あまり良くないなと。ただ、町山さんはその後、森監督が佐村河内さんに何かをやらせる、と言い直してくださったので、ちゃんと作品を後押ししていただいたと思っていますし、そこで盛り上がりもしたので、大変ありがたかったです。

高根:仰るとおり、内容に関して言及しているわけではなかったので、むしろ気になった方が多かったと思います。いずれにせよ、真偽を含めて深読みさせる作品ではあるし、そういう意味でもドキュメンタリーとして強度がある作品だと感じました。最近の日本映画はつまらないとか、世界に通用しないなんて言われることも少なくないですが、本当に面白い作品はたくさんあるなと、本作を観て改めて感じた次第です。

木下:弊社で扱っている作品はニッチなので、日本映画を大局的に語るような立場ではないと考えていますが、当時はまだ弊社はありませんが、森監督の前作にあたる『A』『A2』もすごく内容の濃い作品ですし、面白いものや意義深いものはいっぱいあるんですよね。それをなんとか人に知ってほしいからこそ、この会社をやっているわけで。それに、ドキュメンタリーの話でいうと、日本のことだからこそ身近に感じることが出来て関心が持てたり、面白く感じたりできる部分は絶対にあるはずなんですよ。もちろん、海外のドキュメンタリーにも面白い作品はたくさんありますが、ぜんぜん負けていないと思います。特に今回の『FAKE』については、日本人ならほとんどの人が知っている騒動を題材にしているので、多くの人が興味深く観ることができるはず。

高根:本当に、いろんな意味でドキュメンタリー映画史上に残る作品だと思います。森監督自身は、この後に作品を撮る予定はあるのでしょうか?

木下:しばらくは作りたくないと仰っていました。映画が完成して多くの人に観られるのは、すごく嬉しいみたいですけれど、ドキュメンタリー映画はどうしても現実に干渉する部分もあって、誰かを傷つけてしまうこともありますから、その辛さは、感じていらっしゃると思います。

高根:佐村河内さん本人は、本作をご覧になったのですか?

木下:もちろんです。日本語字幕版を作ったので、それを観ていただきました。作品については、こういう風にしてほしいとのリクエストは一切ありませんでした。決してご本人の主張だけを取り扱っている作品ではないですが、それでも意見したりはありませんでした。本当に、淡々と受け入れている感じで。ただ、ひとつ言えるのは、おそらく安心された部分はあったと思います。ご本人にも責任の一端はありますが、メディアや世間からのバッシングや嘲笑の対象にされてしまい、大変辛い思いもされていたのですが、今回の作品にはそういう意図はなかったので。私も佐村河内さんとはお会いしています。あくまで主観ですが、この映画の本編で描かれているような、腰が低くて丁寧な方なんですよね。奥様も素晴らしい方で。もちろんクリエイターなので、ある種の業はあると思うのですが、決して傲慢な方だとは思いませんでした。佐村河内さんは、ある意味で報道被害者ですし、それで日本中が騒動になったことの背景にはどんな問題があるのか、メディアリテラシーについて考えるうえでも良い作品だと思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる