朝ドラ『ブギウギ』は序盤から“信頼できる”セリフの数々が 他者への敬意にあふれた大人の作劇

『ブギウギ』の“信頼できる”セリフの数々

 エネルギーの塊のようなスズ子(趣里)がステージいっぱいに躍動して、「東京ブギウギ」を歌い、踊る。10月2日からスタートしたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』は、戦後の日本を歌で元気づけ、「ブギの女王」の異名をとる笠置シヅ子をモデルとした、福来スズ子の「笑いと涙の物語」だ。

 第1週「ワテ、歌うで!」では、彼女が福来スズ子になる前、大阪・福島で銭湯を営む家の娘・花田鈴子(澤井梨丘)の少女時代が描かれた。朝ドラの第1週には、主人公の出発点を見せながら、観る者を物語の世界へと引きずりこまなければならないという重要な役割があるが、『ブギウギ』はそれらを見事な手際でクリアしていた。「ああ、この少女はやがて日本一のエンターテイナーになるだろうな」と否応なく思わされる、福来スズ子の原点がたっぷりと詰まっていた。

 溢れんばかりの愛情を注いでくれるお父ちゃんの梅吉(柳葉敏郎)と、人生を楽しむ術を身をもって教えてくれる肝っ玉母ちゃんのツヤ(水川あさみ)のもとで育った鈴子。ちょっと「トロい」けれど、心優しい弟の六郎(又野暁仁)や、キャラの濃い町の人たちに囲まれ、得意の歌を披露して皆を楽しませることが大好きな女の子だ。少女時代の鈴子を演じる澤井梨丘の、体の芯から役を理解し表現しているような芝居が素晴らしい。

 第1話と2話でこの物語の、そして鈴子の人生の柱となりそうなキーワードがツヤから語られた。「アホのおっちゃん」(岡部たかし)はなぜ毎日タダでもらい湯しにくるのかと鈴子が尋ねると、ツヤは答える。

「この世はな、義理と人情でできてんねん」
「おっちゃんは恩人や。義理があんねん。義理を返すのが人情やねん」。

 銭湯を開いた初日、ボロボロの衣服をまといヨロヨロとやってきて、「お風呂ひとつおくれ。10万円持っとったんやけど、落としてしもたんや」と言うおっちゃんを、「なんや困ってはるんちゃうか」と、梅吉は無料で風呂に入れてあげた。おっちゃんは「口開きのお客さん」であり「験担ぎ」であると言う。ツヤも、アホのおっちゃんが気持ちよさそうに風呂に入るのを見て、この商売のやりがいと意味を見出す。これが、「人を快くすることに喜びを感じる」という花田家の原点であり、きっと鈴子にも受け継がれたのだろうと想像できる。

 とにかく困っている人を助けずにいられない性分の梅吉は、川に身を投げて記憶をなくしたゴンベエ(宇野祥平)を助け、それ以来、釜炊き職人として住み込みで雇っている。そしてこの「性分」は、鈴子の生い立ちにも大きく関わってくる。

 12年前、第一子の武一を出産しに香川の実家に里帰りしていたツヤが、もう一人、女の子の赤ちゃんもいっしょに連れて大阪に帰ってきた。ツヤの表情から、何かよっぽどの事情があるのだと察した梅吉は「まあええわ。一人も二人も一緒や」と受け入れる。武一は幼くして病気で亡くなってしまったが、梅吉とツヤは鈴子も六郎も分け隔てなく愛情を注いで育ててきたことが、家族のシーンから痛いほどにわかる。つまり「義理と人情」が鈴子を育てたのだ。

 その一方で、「独りよがりの善意」の危うさもちゃんと描いている。ツヤから教わった「義理と人情」という言葉に触発された鈴子は、同じクラスの松岡(湯田大夢)に想いを寄せる親友のタイ子(清水胡桃)に、告白するように仕向ける。しかしタイ子から、「鈴ちゃんにはわからへんよ」「また芸者の子やら、妾の子や言われる。そやから、もうやめてほしい」と言われてしまう。その顛末を聞いたツヤの言葉が温かく、深い。

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