『ブギウギ』岡部たかしが役柄にもたらす奥行き “アホのおっちゃん”は鈴子に何を残す?

『ブギウギ』岡部たかしが役にもたらす奥行き

 朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)初回放送から早々に存在感を放っているのが、アホのおっちゃん(岡部たかし)だ。後にスター歌手・福来スズ子(趣里)となるヒロイン・花田鈴子(澤井梨丘)の生家で大阪・福島にある銭湯「はな湯」の常連客でさらに最初の客として店主公認の“無銭入湯”を繰り返している。

 薄汚くてだらしなくて「銭落としてしもうてんや」という見え透いたお決まりのやり取りを毎回飽きもせず、特に悪びれる様子もなく繰り返す。常に酔っ払っていてアルコールのことを“薬”だと言うどうしようもない人に違いないのに、なぜだか許してしまえるし憎めない人懐っこさがある。

 岡部の朝ドラ出演は、『ひよっこ』『なつぞら』『エール』に続き、本作が4作目。さらに2024年度前期放送予定の『虎に翼』にも出演が決まっている。

 “アホのおっちゃん”同様に、初回登場時から岡部が強烈なインパクトを放っていたのが、『エルピス ー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)での主人公の上司で番組のチーフ・プロデューサーの村井喬一役だろう。セクハラ、パワハラ、モラハラ全部盛りで口が悪く暴言を連発する。最初は、長年在籍していた報道局で看板番組を担当していたところから、関連小会社に異動させられた不本意な処遇に対して不満を募らせ、惰性でただただ馬鹿げた毎日をやり過ごしているだけの迷惑なおじさんなのかと思いきや、どうやらそれだけではなさそうなこともわかってくる。この壮大な茶番劇を自ら作り出している張本人に他ならないのに、彼自身こそがその虚しさに辟易し嫌気が差しているようにも見えてくる。そこまで振り切っていなければ日常をやり過ごせないような、見て見ぬ振りして乗り切れないような、それもまた主人公・役とは違う形での彼なりの“環境への適応”と見せかけた“抵抗”、そしてある意味自傷行為でもあるかのようだった。

『エルピス』問題プロデューサー役も好演 作り手たちから信頼される俳優・岡部たかし

現在放送中のドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)で、主人公の浅川恵那(長澤まさみ)が出演する情報番…

 そんな村井も、恵那(長澤まさみ)や拓朗(眞栄田郷敦)が冤罪事件とその背景に蠢く巨悪に立ち向かっていく姿に感化され、少しずつ変わっていく。ただ、自身の中に染み付くバブル世代の野心や欲望にも自覚的で、それが時代に合わなくなってきていることにも、自分こそが「老害」「オワコン」と言われてしまいかねない存在であることにも気がついている村井が、全て丸ごと変わるようなご都合主義はもちろん描かれない。その時代的な負の遺産とも言えるかもしれない自分を構成する要素をガラリと変えてしまうことなく、それでも主人公らを後押しすることになる村井のアシストや、一筋縄にはいかない彼の複雑な感情を岡部は見事に体現した。時に哀愁漂う村井からは乱雑で荒削りでむせ返るような色気も滲み出ていた。

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