『らんまん』りんが千歳に託して長屋を旅立つ 槙野家の子供たちを立派に育てた影の立役者

『らんまん』りんが千歳に託して長屋を旅立つ

 人の縁というものはつくづく、いつどこで繋がるかわからない。藤丸(前原瑞樹)の酵母菌研究が竹雄(志尊淳)と綾(佐久間由衣)の力となり、寿恵子(浜辺美波)の店にたまたま訪れた逸馬(宮野真守)が万太郎(神木隆之介)の迷いを取り払った。希望を絶やさずにいれば、自ずと良縁が巡ってくるのだろう。

「身分は、大事か? わしは信用したがじゃ。たとえ、おまんが誰じゃち。その目だけで十分じゃったき」

 『らんまん』(NHK総合)第121話では、そんな逸馬の言葉に背中を押された万太郎がある決断を下す。

 机に向かう万太郎が神妙な面持ちで見つめていたのは、和歌山の神社の森で見つけたツチトリモチ。雌雄異株だが、雄株が見つかっておらず、雌株だけで単為生殖するとされる珍しい植物だ。しかしながら、そんなツチトリモチが神社合祀による森林伐採で失われようとしている。一人の植物学者として「人間の欲がどういう植物を絶やそうとしているのかを世の中の人々に伝えたい」という思いが芽生えた万太郎。だが、それをするのにネックになるのが今の身分だ。

 徳永教授(田中哲司)の助手として東大植物学教室に所属しているからこそ、万太郎はたくさんの文献や論文にありつけ、また安定した給料を得られている。一方で、国立大学に所属している以上、国の意向には逆らえない。身分に助けられ、縛られもしている万太郎は葛藤の末に大学を辞めることを決意した。

 それぞれ立派に成長した4人の子供たちは万太郎から相談を受け、怒りをあらわにする。ただし、万太郎に対してではない。万太郎が森林伐採反対派に回ることで大学を辞めなければならない状況を作っている国に対してだ。

 災害の多い日本において山崩れを防ぐ木々がどれだけ大事か。国への愛は身近な故郷への愛着から生まれるものなのに、その故郷の御神木が切り倒されるのはおかしい。鳥もいなくなると、子供たちは口々に自分の意見を語る。それだけ普段から、自然環境について個々人が思いを馳せている証拠だろう。彼らは万太郎のもとで、自然に対する深い理解と豊かな感受性を育んできたのだ。

 万太郎が大学を辞めたら、生活が苦しくなるかもしれないという不安が一切見えないのも驚くべきこと。もしそうなったらそうなったで、自分たちが働いて家計を支えればいいとすら思っている。でも、決して犠牲になっているつもりはない。万太郎が今、そしてこれから為そうとしていることの意義をしっかり理解した上で、各々の方法で支えようとしている。

 寿恵子のモデルとなっている牧野富太郎の妻・壽衛は「お父さんは植物の研究のためにお金を使っているので、うちは貧乏だけれどもあなたたちは恥じることはないよ」と常々子供たちに語っていたそうだ。寿恵子もまたお金がないからといって卑屈にならず、万太郎を尊敬し、一緒に冒険を楽しむ姿を子供たちに見せてきた。だからこその、今である。

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