孫悟空の活躍を描くアニメーション映画 『モンキー・キング』に漂う異様な雰囲気の正体

『モンキー・キング』の異様な雰囲気の正体

 本作『モンキー・キング』の物語の内容は、このなかの名作『大暴れ孫悟空(大鬧天宮)』に近いといえるが、それだけに、さまざまな部分にリスペクトといえる影響が見られる。上海美術映画製作所作品の孫悟空は、京劇(中国の古典演劇)の面をつけたような、東洋的な美学を反映させた特徴的な造形が魅力で、このキャラクターは日本でも、「サントリー烏龍茶」の2000年代のCMにも登場している。そしてそれは、本作の白塗りのようなメイクが施された悟空のデザインにも踏襲されている。

 そして、悟空の“相棒”となる強力な武器「如意棒」は、本作ではLEDライトの電飾のように発光するところが現代的だといえるが、驚くことにこの表現も、すでに1961年公開の『大暴れ孫悟空(大鬧天宮)』で、すでに登場しているのである。本作では、CGのエフェクトによって光の動きがアップデートされ、よりきらびやかになってはいるものの、60年以上も前に、この基となるエフェクトを完成させている上海美術映画製作所のセンス、技術の凄まじさは特筆すべきだろう。

 また、天界の表現や龍王の宮殿なども、『大暴れ孫悟空(大鬧天宮)』のテイストをさまざまに進化させたかたちで表現し直されているのも感慨深い。2015年には、中国製作の、同じようにCGアニメーションで孫悟空の活躍を描いた映画『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(2015年)が公開され、中国で大ヒットを記録している。もちろんそれも素晴らしい作品ではあったが、中国の伝統やアニメーションの歴史の連続性をより反映させたのは、本作『モンキー・キング』の方だといえるだろう。

 しかし、歴史は更新させていかねばならない。本作は過去の遺産を利用してはいるが、やはり新たに加えられた部分にこそ、新たな作品を製作する意味が込められているはずなのである。本作が人間の少女のアシスタントという、異物をわざわざ用意したのは、一つには奇想天外、荒唐無稽な物語のなかに、できるだけ多くの観客に感情移入させるポイントを作るためだと考えられる。

 また、そのような力の弱い存在を登場させることは、本作のテーマにも繋がってくる。『西遊記』において、自制が効かなくなり天界を混乱させていく孫悟空を、お釈迦さまが五行山に閉じ込めるという、多くの人が知っているエピソードは、「自分の小ささを自覚しなければならない」という、増上慢を戒める教訓とともに記憶されている。もちろん、それは本作のメッセージにも含まれる。

 だが同時に、「自分の小ささを自覚しなければならない」という教えは、劇中で猿の群れの指導者が、高圧的に猿の子どもに言い放っていたように、ある部分では子どもたちの将来の可能性やチャレンジ精神を刈り取るものとしても、本作では描かれている。

 つまり、石から生まれ、親がいない環境で一人で育った孫悟空という存在には、厳しい立場に立たされても、どこまでも向上できるという希望やロマンが投影されているということだ。そして一方で、他者の心を考えずに驕り高ぶって自分勝手に振る舞ってしまうような倫理の逸脱については、逆に自省するべきなのではないかという考え方が、同時に投げかけられているのである。少女のキャラクターは、そういったテーマをより際立たせる役割が与えられていると考えられる。

 それはある意味で、西洋的な考え方と東洋的な考え方が融合した“両義性”だといえるだろう。まさにその点で本作は、国際的な製作体制が活かされた、作る意義のあるものになっているといえるのだ。

■配信情報
『モンキー・キング』
Netflixにて配信中
Netflix © 2023

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