中国アニメーション急成長の理由を探る 背景には建国70周年が生んだ意識と国策の変化が

中国アニメーション急成長の理由を探る 背景には建国70周年が生んだ意識と国策の変化が

 今年の夏、日本では新海誠監督が『天気の子』で二作連続の大ヒットを記録し、ヒットメイカーとしての地位を固めている頃、中国では1本のアニメーション映画が記録的ヒットを飛ばしていた。その映画『ナタ~魔童降臨~』は中国歴代興行収入第二位の大ヒットを記録、質の面での評価も高く、今年の米国アカデミー長編アニメーション部門の候補作ともなっている。 ちなみに今年の中国映画市場は、歴代興行収入ベスト10に5作品を送り込んでおり、相当に活況を呈していると思われる。しかも、『アベンジャーズ/エンドゲーム』以外、全て国産映画だ。

 『ナタ~魔童降臨~』以外にも注目のアニメーション作品が数多い。日本でも急遽公開された『白蛇:縁起』は、中国で今年の1月に公開が始まると、過去10年の国産アニメーション映画として初めて週間興行収入の1位を勝ち取り(中国大陸部映画興行週間ランキング<2019.1.28–2019.2.3>)、人気TVアニメシリーズ『熊出没』の劇場版最新作、日本のア
ニメファンの間で話題となっている『羅小黒戦記』、「九段線問題」で揉めた米中合作『アボミナブル(原題:Abominable)』(アニメ映画「アボミナブル」、ベトナムで上映中止 南シナ海の地図巡り)もヒットを記録。今年は中国アニメーション映画が自国の市場において躍進している。

 さらに、日本国内でも『白蛇:縁起』と『羅小黒戦記』が突如公開され、『白蛇:縁起』と『ナタ~魔童降臨~』は米国アカデミー賞候補に選ばれるなど、本格的な海外進出の気配も匂い始めた。米国と日本アニメのエッセンスを吸収し、中国伝統の物語を大胆に再解釈し、オリジナリティを獲得してきた中国アニメーション業界は、新しいステージに突入しようとしている。

 筆者は昨年も中国アニメの現状について、日本国内で鑑賞できる2本の映画を軸に解説(
伝統の復権と世界市場への挑戦 『紅き大魚の伝説』『ネクスト ロボ』に見る、中国アニメの隆盛)を試みたが、今年のダイナミックな動きを加えてさらに論を発展させてみたいと思う。見えてきたのは製作者たちの研鑽の成果、そして、建国70周年を迎えた中国国民の意識の変化だ。

量から質への転換期だった10年代

Netflixオリジナル映画『ネクスト ロボ』(Netflixにて世界190ヵ国で独占配信中)

 筆者は、今年の9月、池袋で突然公開された2本の中国アニメーション映画『白蛇:縁起』と『羅小黒戦記』を観た。『白蛇:縁起』はフル3DCG映画、『羅小黒戦記』は日本スタイルのルックのフラッシュアニメーションと、それぞれ異なるタイプの作品だが、どちらも非常に技術が高く、そのクオリティは日本のアニメ業界人も感嘆させた。ストーリーは、中国の伝統的な物語をモチーフにしているが、現代的なアレンジと観客の嗜好に合わせた展開で、娯楽映画として一級品の作品となっている。

 かつて中国アニメは粗製乱造の時代があった。生産量は世界一だが、クオリティがともなっていなかったのだが、2010年代に入り、「量から質へ」の転換が図られたのだ。そこには中国当局の戦略な補助金政策が背景にある。

 中国のアニメーション生産量は2011年に世界一に達したのだが、そこから減少に転じた。それまでは中国政府は、分数単位で算出した生産量に応じて補助金を出していたのだが、長崎県立大学の名誉教授、香取淳子氏は2011年を目途に「高度アニメ人材の育成へと政策方針が変更された」と言う(※1参照:香取淳子「中国アニメの転換点としての『西遊記之大聖帰来』」、『知性と創造ー日中学者の思考ー第10号』日中人文社会科学学会、2019年2月5日発行、P116)。

 最初から質を求めず、まずは量を求めたのは上手いやり方だ。あらゆる技術は「量が質を生む」ということはよくあること。競争原理を働かせる意味でも、量的拡大をした後から、絞り込んでいくやり方は理に適う。

 2019年の中国アニメーションの躍進はそうした政策が背景にある。そして、マーケティングも精緻になり、ハリウッド映画や日本アニメが人気を獲得した要因を分析し、作品にも反映させてきたことで質的に成長することに成功した。

『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(c)2015 October Animation Studio,HG Entertainment

 上述の香取淳子氏は、近年の中国アニメーション映画の躍進のきっかけとなった2015年の『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』のストーリーを、中国の若者の嗜好に合わせ「成長物語として改変されたストーリーと、観客の同一視の対象となりうるよう変更された孫悟空像があった」ことをヒットの要因に挙げている(※1、P126)。

 残念ながら筆者はまだこの作品を鑑賞できていないが、今年メガヒットを記録した『ナタ~魔童降臨~』に関しても、中国映画週間で鑑賞した方のブログ(「ナタ~魔童降臨~」観てきました。)によれば、「ハリウッド的に観客が面白いようにしっかりとした下調べの後に企画された作品」とのことで、グローバルな娯楽作品から多くのことを学んで製作されていることが伺える。

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