『らんまん』万太郎の無邪気さと父性を両立した神木隆之介 自然と父になりゆく演技の妙

神木隆之介、『らんまん』父性と無邪気の両立

 何を差し置いても植物一筋だった万太郎(神木隆之介)が初めて一目惚れをしたのが寿恵子(浜辺美波)だったように、やはり待望の第一子・園子も自分だけが見つけたとっておきの花のように無条件に手を伸ばし愛でる。そんな父親としての万太郎の姿が見られる『らんまん』(NHK総合)。

 寝ても覚めても植物のことに頭を占領されている万太郎。本来であれば自分の時間、労力全てのリソースを植物採集や研究に費やしたいだろう万太郎が、植物採集の旅の最中、寿恵子とまだ見ぬお腹の中の我が子に自然と想いを馳せ、手紙をしたためていたのが微笑ましい。

 “仕事か、家庭か”というような二元論を優に超えて、良くも悪くも万太郎にとって家族とは自分を縛る義務や責任感というような側面よりも、本能的に惹かれる存在だったのだろう。そこにいる寿恵子と園子を愛おしく思うのに、理由などない。意図的に“父親としての自覚”を持つことも大切かもしれないが、万太郎の中でそのような想いがしっかりと芽吹く姿が見られた。

 無邪気にひたむきに植物に向き合い仲間に囲まれ笑顔になる万太郎。そして子を身篭った寿恵子に会えなくとも、まだ見ぬ愛しい存在に会えるのを自然と心待ちにする万太郎の2つの顔が、全く矛盾しないものであることを、少年性のある神木が自然と見せてくれてきた。

神木隆之介演じる万太郎の人となりは『らんまん』そのもの “人間を知ってる”物語の面白さ

念願の学会誌『植物学雑誌』の創刊にこぎつけ、これでやっと胸を張って「植物学者」を名乗ることができる。何者かになることができた万太…

 感謝しているからこそその恩を形にしていち早く成果を出して返したいと思っているし、大切な人の存在を理由に自分の夢を途中で諦めてしまうなんてことがあれば、それこそが愛する者に対しても何よりの失礼に当たると考えているのが、万太郎なりの愛情表現で、誠実さなのだろう。そしてひたむきに植物に向き合うのは自身の使命だから。それを“植物学者として早く身を立てて家族を養うため”と言い換えてしまうことにも、きっと違和感を覚えるのだろう。

 いわば“夢追い人”な万太郎が子を持つことで彼の中で様々な優先順位をうまく保てない、バランスが難しいというようなことが出てくるのかと思いきや、ステレオタイプを持たない彼だからこそ、何かに囚われることもないようだ。もちろんその裏には寿恵子という最大の理解者がいてこそだが、「守るものが増えたこと」を“幸せ”だと真っ直ぐ言える万太郎が健在でよかった。

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