『VIVANT』が描く“国を守る”物語の危うさ “野崎”阿部寛の裏切りは何を意味するのか

 8月9日に放送された『VIVANT』(TBS系)第13話終盤では、阿部寛演じる公安の野崎がドラマの中心に躍り出た。

 「接触コード:32118」。バンコクのサイアム・ホテル307号室を訪れたのは、乃木(堺雅人)のよく知る人物だった。東南アジア方面責任者として任務を遂行していたのは、丸菱商事専務の長野(小日向文世)。別班として顔を合わせるのは初めてで、驚きを隠せない中、当面のミッションである新庄(竜星涼)の身柄確保に向けて作戦を練る。

 国際テロ組織「テント」のモニターだった新庄は、同じくモニターであるタイの大富豪チョッキー(タナパック・ジョンジャイパー)のもとに身を寄せていた。ドラム(富栄ドラム)の機転で新庄の潜伏場所は把握したものの、チョッキーの豪邸は厳重なセキュリティが施され潜入は困難。現地警察と連携し、捜索に入ったところで逃走した新庄たちを捕まえるという作戦だった。

 作戦実施にあたっては、薬物を仕込んだ納豆を使用人に購入させ、警察に捜索令状を発付させる。乃木とドラムはわざと監視カメラに映ることでおとりとなって、新庄を地下トンネルに誘導する算段だ。全体の指揮は長野が執る。しかし、そうやすやすと捕まる新庄ではなかった。

 追い詰められた新庄は、乃木の思考や能力を熟知しているからこそ、その作戦を逆手にとって見破る。あらかじめ仕掛けてあった爆弾を爆発させ、混乱に乗じて救急車で逃げる計画だった。だが、それさえも乃木にとって想定内。乃木は長野と打ち合わせて、裏の裏まで読んで作戦を遂行した。別班が個人と組織の総合力で上回り、長野に乃木の支援を命じた櫻井(キムラ緑子)の判断は正しかったことになる。

 新庄に対する尋問では、第1シーズンで山本(迫田孝也)やアリ(山中崇)に行われたものに通じる拷問が再現された。最終的にアリの家族は助命されたため、視聴者は、最悪の事態が起こらないと予想できる。それでも、別人格の「F」になり代わった乃木の追及は容赦なく、新庄も精神面を削られて知っていることを吐かざるを得なかった。堺雅人の二面性の演じ分けと、追い詰められた人間の精神状態を体現した竜星涼による迫真の演技合戦に息をのんだ。

 第13話では、今作の重要なモチーフ、すなわち国家と個人の相克という主題が浮かび上がった。まず、長野と“ブルーウォーカー”こと太田梨歩(花岡すみれ)の画面越しの対面があった。社内で不倫関係にあったとされる二人が、別班員と協力者として再会したことは、少なくとも太田にとってインパクトのある出来事だったようだ。

 その前段として、太田が、乃木を通じて別班への協力を要請されるくだりが挿入される。実質的に断ることができない強制であり、ハッキングの罪に問われない代わりに別班のために働くというもの。報酬と賠償金の補償はあるものの、裏切った場合の代償は大きく「生存記録を抹消」される。単に記録がなくなるのではなく、存在自体を消されるという意味だ。ソフトな語り口で恐ろしいことを口にする乃木である。

「それが国防。国の機密を守るとはそういうことです」

 国家機密の重要性から乃木の言葉に説得力はあるかもしれないが、それでも人の命は重いはずだ。国が個人に優先する局面が『VIVANT』ではちょくちょく出てくる。端的に「美しい国」である日本を害する者は誅されてよく、国民は国のために犠牲を払うべきというニュアンスも感じられる。これが国家主義やナショナリズムに根ざした愛国心とどう違うのかと尋ねられると、歯切れが悪くなる自分がいる。

 一般的に「任務に私情を挟むな」と言われるが、日本という国に奉仕する別班員自身がその葛藤をリアルに受け止めている姿が印象的だった。長野は、乃木に家族を持つ予定を尋ねる。長野に妻はいるが、相手は別班員で、任務に有用であることから世間体を考えて結婚した。長野は「家族を持つことはリスク」と言いながらも「無償の愛を知っていることは強さになる」と語る。ここでは家族愛と国を守ることが重なり合う。

 個人の尊厳を根幹とする憲法を固持するなら、家父長制を思わせる台詞に抵抗を感じる人もいるだろう。これまで日曜劇場が描いてきた「家族」が、このような儒教的階層性によって成り立つ国家の構成要素なのかは改めて問われるべきである。作品の力点が国に移ったとき、ドラマの感動ポイントが変質してしまわないかも気になる。そうなったときに過去の戦争映画や同様のモチーフを持った作品で描かれたように、人間性の喪失や疎外がテーマとして浮上してくる。それは作風の変遷と呼ぶには大きすぎる変化だ。

 別班員としての終着点を示唆する長野の「老いには勝てない」という台詞もあって、乃木の今後と作品の方向性を探る上でも、二人の対話は興味深かった。任務と私情の間で引き裂かれたのは、新庄そしてチョッキーも同じだった。日本を愛し、別班をリスペクトする新庄だからこそ、肉親が犠牲になることに良心の呵責を感じる。また、チョッキーがリスクを冒して新庄の逃亡を手助けしたのは個人的な感情が動機だった。私情を優先した新庄とチョッキーを責めることはできないだろう。

 国防と国家機密をめぐる駆け引きにおいて、権謀術数を繰り広げる両者は、そのどちらにも守るべき「私」の領域があり、時として矛盾に引き裂かれながら任務に身を投じているという事実。それは、滅私奉公を強いられてきた日本のサラリーマンには既視感のある光景だ。『VIVANT』は日曜劇場のもう一つの軸である「働く父親のドラマ」を継承している。

 毎話ラストでどんでん返しが炸裂する第2シーズンでも、さすがにこの展開は読めなかった。公安内部に敵対者がいることは示唆されていたし、東条(濱田岳)が怪しいと感じていたが、主役級の黒幕的な動きに、序盤で出番が少なかったのはこのためだったのかと納得した。新庄のタイ入国は、チョッキー側の人間と公安サイドがそれぞれ寄与していた。おそらく野崎は、東条を使って新庄の国外脱出をカモフラージュし、自らも何らかの手段で行方をくらました。作中で野崎はエルサレムにいて、国外の協力者と接触を図った。

 日曜劇場定番の顔面アップや味方の裏切りがふんだんに盛り込まれた本作。情報量に圧倒されてしまうが、制作陣に出し惜しみする気はないようである。

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