Bunkamura ル・シネマが見つめてきた“渋谷” 担当者に聞く今までの歴史とこれからの未来

ル・シネマが見つめてきた“渋谷”

 目まぐるしく街の風景が変化し続けている渋谷。その中でも大きな変化と言えるのが、「渋谷の顔」とも言える存在だった渋谷・東急百貨店本店の閉店だ。それにともなう形で、ミニシアターの老舗「Bunkamura ル・シネマ」も一時休館。「Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」として、6月16日より新たなスタートを切った。

 時代とともに変化していく渋谷のミニシアターを、“老舗”であるBunkamura ル・シネマはどう見つめてきたのか。ブログラミングプロデューサーの中村由紀子氏、番組編成担当の野口由紀氏に話を聞いた。

“ル・シネマらしい”作品を

――1989年に開館した、渋谷のミニシアターの老舗であるBunkamura ル・シネマが、この6月16日に「Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」として、新たなスタートを切りました。今日初めて来館したのですが、以前の場所よりも、ちょっと席数が増えていますよね?

中村由紀子(以下、中村):そうなんです。ご近所にあるヒューマントラストシネマ渋谷(2004年、渋谷アミューズCQNとして開館。2008年より現在の館名に)さんのいちばん大きいスクリーンが200席なので、それぐらいのイメージですかね。

野口由紀(以下、野口):ル・シネマ 渋谷宮下は、以前のル・シネマと同じく2つのスクリーンで構成されていて、7階が268席、9階が187席となっています。以前が150席と126席だったので、渋谷にあるミニシアターとしては、かなり大きいキャパシティになりました。

――そうなんですね。

野口:Bunkamuraは隣接地の再開発工事に伴って一部施設を除いて休館しています。オーチャードホールだけ、工事がお休みの日曜日と祝日を中心に引き続き公演を開催するのですが、その他の施設はどこか他の場所が必要だということになって。ただ、やっぱり渋谷という場所にはこだわりたいよねっというところで、いろいろと場所を探した結果、今のこの場所になりました。

――なるほど。その「ル・シネマ 渋谷宮下」の「こけら落とし」上映が、「マギー・チャン レトロスペクティブ」(~7月13日)と「ミュージカルが好きだから」(~7月6日)となったわけですが、この2つの特集上映からスタートしたのは、どういう理由からだったのでしょう?

野口:ル・シネマがオープンした当時の話は、このあと中村からお話させていただきますが、ル・シネマのいちばんの特徴は、やはりBunkamuraという複合文化施設の中に入っていることだったと思うんです。なので、バレエの映画だったり、演劇に関連したものだったり、アートに関するものだったり、そういう映画の上映のお話もいただきやすかったですし、いらっしゃるお客様も、カルチャー全般に対して幅広く興味をお持ちの方が多くて。ル・シネマのDNAとして、そこは大事にしていきたいというのがあったんです。ひとつめの「ミュージカルが好きだから」……ミュージカル映画の特集に関しては、その部分が大きかったと思います。近年は、『ラ・ラ・ランド』(2016年)や『グレイテスト・ショーマン』(2017年)などのヒットもありましたし、ミュージカル映画が好きという若い方が結構いらっしゃるようなので、そのあたりも意識しつつ。

――なるほど。

野口:その一方で、「マギー・チャン レトロスペクティブ」は、過去にル・シネマで上映したウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(2000年)が、ひとつのきっかけになっていて。『花様年華』は、私たちにとってもすごく印象深い作品ですし、お客様の中にも「ル・シネマと言えば『花様年華』」といったイメージを持たれている方も結構多いんですよね。あと、ひとりの女優にスポットを当てた特集上映ということで言うと、昨年、マーメイドフィルムさんとコピアポア・フィルムさんの企画で「ロミー・シュナイダー映画祭」という特集上映を開催したのですが、すごく好評だったんです。コロナ禍で、なかなか動きにくい時期ではあったのですが、特に女性のお客様がたくさん来てくださって。それもあって、オープニングでひとりの女優にフォーカスした特集をするのが、やはりル・シネマらしいのではないかと。であれば、マギー・チャンが良いのではないかという話になりました。

中村:マギー・チャンは、アジアの女優さんですけれど、フランスのオリヴィエ・アサイヤス監督の『イルマ・ヴェップ』(1996年)や『クリーン』(2004年)といった出演作もありますし、『花様年華』に関しては、昨年ウォン・カーウァイ監督の4K版の特集上映が、大きな話題となりましたよね。そういう意味で、幅広い作品のラインナップが組めるのではないかと。それで組ませていただいた感じですね。

――ちなみに、それ以降のラインナップは、どんな感じになっているのでしょう?

野口:こけら落としは、2スクリーンとも旧作の特集上映になりましたが、やはり封切りの映画も大事にしたいということで、7月7日からは、Bunkamuraとしては初めての配給作品となる『大いなる自由』が公開されています。

――こちらはまた、ル・シネマのセレクトとしては、ちょっと意外な感じもしますよね……。

野口:そうですね。この映画は、一昨年のカンヌ国際映画祭で観て気になってはいたんですけど、去年の7月の「レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」で、字幕付きで上映されていたものを改めて観て、やっぱり良い映画だなと思って。ただ、その時点では、国内での公開が決まってなかったんですね。それはもったいないというか、だったら自分たちで配給してしまおうということで、私たちがやることになったのですが、新しいル・シネマは、こういう映画も、ちゃんと拾いあげて紹介していきたい……というか、その第1弾という感じなので、この作品の結果次第では、第2弾もあるかもしれないという感じです(笑)。

――なるほど。

野口:そのあとも、セネガル系のフランス人監督が撮った『サントメール ある被告』(7月14日公開)、フランス育ちの主人公が、初めて母国ソウルを訪れる『ソウルに帰る』(8月11日公開)、昨年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され話題を呼んだ『エリザベート 1878』(8月25日公開)など、いずれも女性が主人公、国際色豊かな作品で、なおかつお客様に「ル・シネマっぽい」と思っていただけるような作品を、いろいろ用意しています。

――ちなみに、特集上映のようなことは、今後も続けていくのでしょうか?

野口:そうですね。近々の話であれば、昨年好評だった「ロミー・シュナイダー映画祭」と同じ座組みで、7月28日から「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選」を予定しています。そういった旧作上映もやりつつ、引き続き封切り作品にも力を入れていきたいです。

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