『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は「芸術とは何か?」を問う 実写化を成功させた“足し算”

映画『岸辺露伴』が問う芸術とは何か

 映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、天才漫画家・岸辺露伴(高橋一生)がこの世でもっとも黒く邪悪な絵を求めて、ルーヴル美術館へと向かう物語だ。

 人気漫画『ピンクダークの少年』の作者・露伴は、漫画のリアリティを追求するために危険な取材を重ねる中で、人知を超えた超常現象に遭遇する。だが、彼には「ヘブンズ・ドアー」と呼ばれる標的を本に変えて、相手の記憶を読んだり、文字を書き加えることで相手の行動を操ることができる特別な能力が備わっており、その力でさまざまな困難を乗り越えていく。

 原作は荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社/以下『ジョジョ』)のスピンオフシリーズ『岸辺露伴は動かない』(集英社)。

 本作は2020年にNHKでスタートしたテレビシリーズのスタッフ・キャストが再集結した作品であり、123ページのフルカラーコミックスが原作となっている。

 1話完結のテレビドラマとして2020年に放送がスタートした『岸辺露伴は動かない』は、2020年の年末に第1〜3話が放送されて以降、年末ドラマの定番となっている。

 圧倒的な画力によって成立している荒木飛呂彦の世界観を実写化するにあたって、『岸辺露伴は動かない』にはさまざまな創意工夫が施されていた。

 主演の高橋一生を筆頭とする俳優陣の怪演、ジャズミュージシャン・菊地成孔による高級感の中に漂う不気味な手触りのある劇伴。極端なアングルのカット割りを駆使することで荒木漫画のコマ割りを実写映像に落とし込んだ監督・渡辺一貴の演出、そして、小林靖子の見事な脚色。

 アニメ版『ジョジョ』も担当している小林は、特撮やアニメの脚本を主戦場としている脚本家だ。漫画原作の映像化にも定評があり、実写化にあたっての足し算と引き算が抜群にうまい。たとえば『岸辺露伴は動かない』シリーズは『ジョジョ』のスピンオフなのだが、『ジョジョ』の世界観の核となる「スタンド」という名称は、あえて伏せている。

 スタンドとは、精神エネルギーが具現化した超能力のことだ。『ジョジョ』ではスタンドを操る主人公たちが敵のスタンド使いと戦うバトルをミステリーテイストで描くことで人気を博しており(第3部以降)、露伴の「ヘブンズ・ドアー」もスタンド能力として描かれていた。

 しかし、ドラマ版では「ヘブンズ・ドアー」は「ギフト」と呼ばれている。毎話露伴が対峙する事件も、人間との戦いというよりは呪いや祟りといった怪奇現象に近く、得体のしれない不気味な力に露伴が翻弄される様子が描かれている。

 つまり、スタンドというわかりやすい概念を伏せることによって、ドラマ版『岸辺露伴は動かない』の不気味さはよりいっそう強まっている。これが引き算の部分だが、同時に本作は見事な足し算が施されている。

 何より大きかったのが、露伴の担当編集者・泉京香(飯豊まりえ)のレギュラー化だろう。彼女が加わったことで『トリック』(テレビ朝日系)や『時効警察』(テレビ朝日系)のような男女のバディもののミステリードラマのテイストが生まれ、テレビドラマとして見やすくなっている。

 そして、今回の映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』にも、原作になかった新要素が加えられている。

※以下、作品の結末に触れています

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