『THE FIRST SLAM DUNK』井上雄彦の絵をいかに3DCGで再現? CG担当が明かす制作過程

映画『SLAM DUNK』CG担当に聞く

レタッチ工程を通常よりも増やしたことが作家性の発揮につながった

ーー井上監督の絵をCGアニメーションで再現するにあたって、ドローイングツールを用いてかなりの量を描きこんでいるように見えます。井上監督ご自身も含めてかなりの分量を描いているようですが。

中沢:基本的に言葉だけでやりとりするのは難しいと思っていました。なので、作ったアニメーションに対して、井上監督に直接描いてフィードバックしてもらうやり方をしていたんです。監督が描く必要があると判断されたものは全て描いています。監督が描かれるチェックフローの段階はいくつかあって、今話したのは第一段階でアニメーターに対しての修正指示です。その後に、監督に最終絵に直接反映されることを意識して描いてもらう工程もありました。

ーー作画監督のお仕事のようなことを井上監督がやっていたということでしょうか?

中沢:そうですね。やはり、正解の絵を持っているのが監督ですから、そうなりました。

ーーCGに描きこむために、ダンデライオンさんの開発したツールを使用しているそうですね。

中沢:そうですね。AnimStrokeと言って、工程の最終段階で使用するものです。井上監督の絵をCGで再現するための取り組みとして、最終絵にもレタッチが必要だろうと最初から予想していたので、この作品ではレタッチの工程を増やしています。本来、撮影が終わればそれで作業は終わりですが、撮影された絵に対して監督の加筆、修正をもらい、それをもとにアニメーターがAnimStrokeや2Dレタッチソフトで描きこみを加えて、その素材を入れて最終的な撮影を行うというフローでやっています。一般的な最終工程の後に、レタッチ作業を必須の工程として設けたんです。レタッチ作業自体は従来のプロジェクトにも存在しますが、最終工程で撮影担当者がイレギュラーな修正として手を入れるくらいです。本来ならイレギュラーな工程をマストの工程にしたわけです。

ーーそれは大変時間のかかる作業ですね。

中沢:そうですね。その作業のためには撮影段階でも一部のアニメーターにはプロジェクトに残ってもらう必要がありました。こういうことは自分の経験では初めてです。ただ、AnimStrokeというツールは、3D上にペイントしたものがカメラやキャラクターの動きに合わせて追従してくれるものです。従来の2Dレタッチだと、全てのフレームに描かないといけませんでしたから、レタッチのコストを下げてくれてすごく便利でした。最終レタッチで更新する内容は影や細かい線などで、顔の表情とか口の広角などは、それ以前の段階で直しておくべきところで、細かいチェックがそれ以前の段階にもたくさん入っています。

ーーアニメーションの修正から、表情の細かい直し、最終レタッチに至るまで、何度も監督の直しが入るわけですね。

中沢:そうですね。最初のアニメーションテスト、マスターショットという工程の中で、どの段階でこれは直しておくべきなのか、その都度説明させてもらいました。

ーー本作は作業工程そのものがかなり特異なものだったのですね。このやり方は、原作者の井上先生が現場にいたから可能だったのでしょうか? また、他の現場で再現性はありますか?

中沢:やはり監督の立場に立つ人次第でしょうね。本来なら、作画監督がそうした修正を入れていくのだろうと思いますが、非常に労力がかかります。普通の作品だと総作画監督の下に何人か作画監督がいますが、それを全部監督1人がやったような感じなので。作家性という言葉がもしあるとすれば、この作品は井上監督が最終的なところに携わっていたからこそ、ルックもアニメーションも井上監督のセンスに溢れたものになったんだと思います。それでも、現場のアニメーターもプロですから、やっていけばいくほど経験値はたまっていきました。これはあり得ない話ですけど、TVシリーズみたいにこれを何年もやれば監督自身の作業は減っていくのかなとは思います(笑)。

3DCGアニメの未来

ーーアメリカの3DCGアニメーションでも『スパイダーマン:スパイダーバース』のような手描きテイストの作品が増加傾向にあります。中沢さんは今後のCGアニメーションの表現はどう進化していくと考えていますか?

中沢:『スパイダーバース』や『長ぐつをはいたネコと9つの命』に、これから上映される『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』のような、リミテッド的な方向がありつつ、一方では『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』みたいなハイフレームレートの作品も出てきましたし、いろんなタイプのルックに対応できないといけないなと思います。その中でも、東映アニメーションのCGが目指すところは、今まで培ってきた作画の作品と変わらず観てもらえるものだと思います。やっぱり、「CGっぽい」とか「CGが気になる」と言われるのはグサッと刺さるので、どうすればその違和感が除けるのかですね。

ーー東映アニメーションのCGとしては、やはり第一に作画と馴染むことが重要だと。

中沢:そうですね。今作のようなCGと作画のハイブリッド作品の場合は両者の違和感をなくすことが大事ですが、東映アニメーションのCGも多岐に渡っており、リアル調のフル3D作品も作っていますし、東映の社風である子どもに夢を与えられるような作風を、これからも追求していきたいです。

■公開情報
『THE FIRST SLAM DUNK』
公開中
原作・脚本・監督:井上雄彦
演出:宮原直樹、大橋聡雄、元田康弘、菅沼芙実彦、鎌谷悠、北田勝彦
CGディレクター:中沢大樹
キャラクターデザイン・作画監督:江原康之、井上雄彦
サブキャラクターデザイン:番由紀子
キャラクターモデリングスーパーバイザー:吉國圭
BG&プロップモデリングスーパーバイザー:佐藤裕記
テクニカル&リギングスーパーバイザー:西谷浩人
シニアアニメーションスーパーバイザー:松井一樹
テクニカルアニメーションスーパーバイザー:牧野快
シミュレーションスーパーバイザー:小川大祐
エフェクトスーパーバイザー:松浦太郎
シニアライティングコンポジットスーパーバイザー:木全俊明
ライティングコンポジットスーパーバイザー:新井啓介、鎌田匡晃
美術監督:小倉一男
美術設定:須江信人、綱頭瑛子
色彩設計:古性史織、中野尚美
撮影監督:中村俊介
編集:瀧田隆一
音響演出:笠松広司
録音:名倉靖
キャスティングプロデューサー:杉山好美
音楽プロデューサー:小池隆太
2Dプロデューサー:毛利健太郎
CGプロデューサー:小倉裕太
制作統括:北﨑広実、氷見武士
アニメーションプロデューサー:西川和宏
プロデューサー:松井俊之
声の出演:仲村宗悟、笠間淳、神尾晋一郎、木村昴、三宅健太
オープニング主題歌:The Birthday(UNIVERSAL SIGMA)
エンディング主題歌:10-FEET(EMI Records)
音楽:武部聡志、TAKUMA(10-FEET)
製作:2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners
アニメーション制作:東映アニメーション/ダンデライオンアニメーションスタジオ
©I.T.PLANNING,INC.
©2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners
公式サイト:https://slamdunk-movie.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/movie_slamdunk/
公式Instagram:https://www.instagram.com/slamdunk_movie/
公式Facebook:https://www.facebook.com/movie.slamdunk/
公式YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=RGEdQv95PgY

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる