『舞いあがれ!』福原遥と我々の翼に希望を乗せて 向かい風の旅が勇気をくれた半年間

『舞いあがれ!』福原遥の旅にもらった勇気

 向かい風に負けず、たくましく生きてきたのは舞だけではない。貴司(赤楚衛二)や久留美(山下美月)、浩太、めぐみ、悠人(横山裕)、祥子(高畑淳子)といった人物、一人ひとりも自分自身と向き合ってきた。成功に満ちた輝かしい人生では決してなく、時に暗闇に包まれ、挫折や失敗も経験しながら、それでもと必死に活路を見出してきた険しい道のり。それは五島の現地で、東大阪からリモートで、舞のフライトを見守っていた全員の人生に言えることだ。『舞いあがれ!』には「こんねくと」だけでなく、多くの「繋ぐ」にちなんだモチーフが登場してきた。IWAKURAが世界に誇る「ネジ」、織姫と彦星を引き合わせるために空に橋をかけた鳥の名前である「かささぎ」。舞自身もまた多くの人々との出会いの中で、その「繋ぐ」役割にいた人物でもあった。カフェ「ノーサイド」に、なにわバードマンや航空学校の面々、舞にとっての家族が集結していたのは、舞が夢を叶える瞬間を見届けるのとともに、その一人ひとりがいなくては今の舞は存在してはいないということ――舞にとっての、みんなにとっての翼だったということを示している。

 多くの人の夢を乗せた新しい翼「かささぎ」は、貴司が自分を見つけた場所・大瀬埼灯台、かつて幼い頃に舞がばらもん凧を揚げた知嘉島を通過し、「一つ目の目的地」に到着する。舞の人生がここで終わりではないということを表すのと同時に、それは演じる福原遥の俳優人生にとっても同じことが言えるだろう。浩太をはじめ、めぐみや貴司、大河内といった人物/役者と対峙してきた福原。筆者が『舞いあがれ!』で印象的なシーンを思い浮かべた時、そこにはいつも福原の自然で綺麗な涙があった。その多くは誰かの芝居を受けてのものであったが、舞がかささぎで「一つ目の目的地に到着します」と言い終わった後の福原の瞳を潤せた笑みは、パイロットとしての夢を叶えた舞であり、1年余りにわたって舞を演じてきた福原自身の達成感と幾ばくかの寂しさが混じった表情に思えてならなかった。それでも福原遥の俳優人生は続いていく。そして、我々視聴者の人生も。真っ暗な夜にどこにいるのか、どこに向かえばいいのか分からなくなったら、また舞の姿を、『舞いあがれ!』を目印にすればいい。

 2023年3月31日、快晴の空を見上げながら。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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