『舞いあがれ!』福原遥と我々の翼に希望を乗せて 向かい風の旅が勇気をくれた半年間
1994年4月、町工場がひしめくものづくりの町・東大阪でスタートした舞(福原遥)の物語は、2027年1月、五島で運航開始となる空飛ぶクルマ「かささぎ」の初フライトで幕を閉じた。『舞いあがれ!』(NHK総合)だけでなく、これで2021年以降に放送されてきた朝ドラは、『おかえりモネ』(2022年7~8月頃)、『カムカムエヴリバディ』(2025年)、『ちむどんどん』(202X年)とコロナ禍より先、つまりは近未来までを描いてきたこととなる。
「戦争」や「震災」、そして「コロナ禍」という人生の逆境、向かい風をヒロインの苦難として描いていくことの多い朝ドラは、その果てに必ず「希望」を見せてくれる。先述した作品だけでなく、きっとこの先の『らんまん』も、『ブギウギ』も、『虎に翼』も、時代やテーマは違えど、最後に主人公は我々視聴者の朝に笑顔と元気、そして勇気を与えてくれるのだ。それが100作以上にわたって続いてきた朝ドラの役目、あるいは使命とも言えよう。
『舞いあがれ!』でコロナ禍が描かれた意義 高杉真宙の言葉が3年間の苦しみに寄り添う
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言い換えれば朝ドラとは、希望をどのように描いていくかという作品でもある。振り返れば『舞いあがれ!』は、まだ幼い舞が家族みんなで飛行機に乗って旅行をする夢から目覚めるところからスタートした。聞こえてくるのは「目的地は快晴。それでは快適な空の旅をお楽しみください」という女性機長のアナウンス。物語が進むにつれて、人力飛行機サークル「なにわバードマン」で大空を飛ぶことに魅了された舞が、航空学校を経て旅客機のパイロットになるのだろうと、誰もがそんなストーリーを思い描いていたはずだ。
しかし、舞の人生に「リーマンショック」という強い向かい風が立ちはだかる。さらに岩倉家に訪れる父・浩太(高橋克典)の死。母・めぐみ(永作博美)を支えるため、さらには町工場を立て直すため、株式会社IWAKURAに入社した舞はパイロットの夢を諦めることとなる。この時期から、『あさイチ』(NHK総合)の朝ドラ受けをはじめ、『おはよう日本』(NHK総合)の朝ドラ送りなどで頻発して聞こえてきたのは、「舞ちゃんがパイロットになる物語じゃなかったの?」というストレートな疑問だった。筆者も正直そう思っていた。
けれど、そこから舞は自身の会社「こんねくと」を立ち上げる。コンセプトは「町工場と人を繋ぐ」。やがて「空飛ぶクルマ」を開発する刈谷(高杉真宙)の「株式会社ABIKILU(アビキル)」と業務提携し、舞が長年IWAKURAで培ってきたものづくりの精神と一度は諦めかけていた空を飛ぶという夢が接続されていく。旅客機に憧憬の念を抱いていた小学校3年生の舞の夢は、それから33年の歳月を経て、また違った形で叶うこととなるのだ。全ては意味ある遠回りだったということを、人は何度夢を見てもいいのだということを、パイロットとしての舞の勇姿が伝えてくれている。それは教官の大河内(吉川晃司)が教えてくれた「答えは一つではない、大切なのはこれからどう生きるかだ」という言葉の実現でもあるだろう。小学校の校庭から、五島からの帰路にめぐみ丸から、人生の節目に舞が見上げていた飛行機/空に、今、舞は飛び立っているのだ。