『リバオケ』と『のだめ』、『星降る夜に』と『silent』 比較を見事に払拭した1月期ドラマ
2023年1月クールに放送された多くのドラマが最終回を迎えた。『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系/以下『リバオケ』)と『星降る夜に』(テレビ朝日系)は、放送前は過去作との類似点を批判する声が多かったが、放送が始まると評価が一転した。
『リバオケ』メンバーたちは『のだめ』の音大生たちの“その後”?
まず『リバオケ』は、天才バイオリニストでコンマスの谷岡初音(門脇麦)とマエストロ(指揮者)の常葉朝陽(田中圭)が地元のオーケストラ「児玉交響楽団」を立て直していくドラマだが、放送前は『のだめカンタービレ』(フジテレビ系/以下『のだめ』)との類似が指摘されていた。
二ノ宮知子の同名漫画(講談社)をドラマ化した『のだめ』は、天才ピアニストの“のだめ”こと野田恵(上野樹里)と、指揮者を目指す千秋真一(玉木宏)の成長を描いたドラマで劇中にオーケストラが登場するため、確かに『リバオケ』と重なる部分が多い。しかし、音楽大学を舞台にした青春ドラマである『のだめ』に対し、『リバオケ』はオーケストラと生活の両立に悩む音楽家たちの姿が描かれる大人のドラマとなっていた。
何より『のだめ』と好対照なのが主人公の初音である。彼女は元天才バイオリニストだったが、10年前に表舞台から姿を消して、市役所の職員として働いていた。そんな初音が朝陽にコンマスに招聘されたことで、音楽家として再起する姿が物語の醍醐味となっていた。
また、どちらの作品もコメディ要素が含まれているのだが、『のだめ』がコメディに全振りしているのに対し、『リバオケ』はシリアスな場面が続く中での一服の清涼剤という抑制されたものとなっている。この違いは、音大という幸福なモラトリアム空間が舞台の『のだめ』と、生活がかかっている社会人のサバイバルを描いた『リバオケ』の違いだが、より深く掘り下げていくと、作品を取り巻く時代背景の違いが見えてくる。
『のだめ』は原作漫画が2001~2010年にかけて連載され、ドラマ版は2006年に放送され、完結編となる劇場映画『のだめカンタービレ 最終楽章』の後編は2010年に公開された。その意味で2000年代を象徴する作品だが、当時は平成不況こそ続いていたが、日本にはまだ余裕が残っていた。その空気は『のだめ』の楽しい音大生活とシンクロしており、だからこそ『のだめ』は幅広い視聴者を獲得できたのだ。
対して『リバオケ』で描かれる生活苦は切実で、音楽家として仕事を続けることが、いかに困難なことかが、繰り返し描かれる。その意味で『リバオケ』の初音たちの姿は『のだめ』の音大生たちの「その後」とも言え、生活に余裕のない令和日本の空気を反映している。つまり、『のだめ』と同じ題材を扱っているように見えながら『リバオケ』が全く違う作品となったのは、作品を取り巻く時代背景の違いが一番大きいのではないかと思う。