『silent』はなぜ我々の心を掴んで離さないのか? 風間太樹監督に演出の意図を聞く

『silent』監督に演出の意図を聞く

 現在放送中のドラマ『silent』(フジテレビ系)が、私たちを虜にしてやまない。リアルタイムで視聴するだけにとどまらず、見逃し配信を繰り返し観てはそれぞれの登場人物の感情を読み解いたり、細やかな表現の考察をするファンも多い。『silent』がこれほどまでの人気を誇った理由は数あれど、本作はやはり“演出”が光っている。

 そこで今回は『silent』第1話、第2話、第5話の演出を担当した風間太樹監督にインタビュー。風間監督はこれまでに『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)や『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京系)の監督を務め、高い評価を得ている。風間監督の演出は、どうして我々の心を掴むのか。印象的なシーンの裏側や、演出を考える上で大切にしていることを聞いた。

撮影は手話を学ぶところから始まった

風間太樹
風間太樹監督

ーー『silent』が放送されて、大きな反響が巻き起こっています。様々な声が風間監督の元にも届いていると思いますが、率直にいま感じていることを教えてください。

風間太樹(以下、風間):視聴者の皆さんが自分の言葉で『silent』の感想を届けてくださるのは素直に嬉しいです。細やかで丁寧な見方をしてくださっている実感もあるのでありがたいですし、考察を読んでいてこちらも非常に楽しいです。

ーー印象に残っている反応はありますか?

風間:紬(川口春奈)推しとか、想(目黒蓮)推しとか、湊斗(鈴鹿央士)推しとか、それぞれのキャラクターに愛着を持って観てくださっている方の声は嬉しいですし、それだけ脚本の生方美久さんの描くキャラクターの愛おしさと、演じる俳優の魅力が届いているということだと思います。あとは、意図して描いているものに反応していただけると、それはまた励みになりますし、考えを尽くして、鮮度の高い映像表現をお届けできたら良いな、という気持ちが日々高まっています。

ーー今回、演技をする役者さんたちはどうしても“聞こえる”わけで。現場での演技指導もあると思いますが、本作の演出で特に意識したことはなんですか?

風間:まず作品に入っていくときに、手話という“言語”を俳優が自分のものにしていく過程を見ておく必要があるだろうと考えて、できるだけ手話の練習に立ち会いました。そこで「手話の表現とは何なのか?」を学んでいくうちに理解したのは、その手の動きで表現される言葉は勿論重要ではあるが、そこに“表情”が乗って初めて感情が表現されるものである、ということでした。なので、どういった手話が相手に思いを届けるのにより良いのかを演出の側も知る必要がありましたし、それを知った上で演出しなければならないという、ハードルの高さを最初に感じました。

silent

ーー手話の練習から参加されていたんですね。

風間:まず手話の先生に自己紹介や挨拶などの基礎を教えてもらいました。俳優とディスカッションをする上では、現場に入っていくまでに自分の知識や意識を獲得していく必要がありました。そのなかで、手話にまつわる様々な語源であるとか、今回手話の監修を担当してもらっているチームの彼らがどういう経験をしてきたのかにも耳を傾けました。というより、“教授”してもらいました。そういった始点から、作品作りに入っていきました。

ーーメイキングシーンを見ると俳優の方々は本番前でも手話で会話してますよね。

風間:俳優は手話の監修のメンバーとコミュニケーションを取るときに手話で積極的に対話したり、日常的に手話を取り入れていく姿勢で撮影に臨んでいました。目黒くん、夏帆さんを筆頭に、手話としっかり向き合おうとする練習の懸命さがあったと思います。

ーー本作では重要な要素となる“音”の演出についてはどうですか?

風間:“音”をどういうふうに感じるか、その表現を考えていくときに、空間の中にある音をどのように扱っていくのがいいのか、様々な模索をしました。「聞こえている」「聞こえていない」ということを露骨に音のありなしで表現するのはまた違うと思っていて。彼らが言葉にする手話を大切に捉えていくことを考えたとき、例えば対話のシーンで、手の動きや口や表情で表現したときの衣擦れ、リップの鳴りなどを大切に録音して、それを1つの表情と考え音を乗せていくことが大事なのではないかと思いました。手話と向き合っていくなかで、静けさの中にも彼らが動いている、言葉にしているという「タッチ」をしっかり残して表現していきたいと思ったんです。

ーーあの微かな音にはそういう意図が込められていたんですね。ほかにも心情表現としての環境音へのこだわりもとても感じました。

風間:この作品は“音”が1つのテーマになっている作品だと思っていて、確かに心情のざわめきや揺らぎがあるシーンでは、意識的に音が鳴る場所やシチュエーション選びをしています。想の耳がほとんど聞こえないという事実を湊斗が初めて萌(桜田ひより)から聞かされた帰り道、その心情が踏切の音や電車の通過の雑音で強調されていたりなど。そういった日常で鳴っている音への意識というか、普段感じている音、その情報量への意識を向けてもらうための演出を、映像表現の中に組み入れていきました。

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