『silent』が描いたもっとも残酷な世界 新人脚本家・生方美久の今後に期待すること

『silent』が描いたもっとも残酷な世界

 フジテレビ木曜劇場『silent』が最終回を迎えた。本作は、生方美久が脚本を担当するオリジナルドラマ。彼女は2021年の第33回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞した29歳の新人作家で、本作が連続ドラマ第1作となる。若手の新人が民放の夜22時台というプライムタイムのドラマで全話の脚本を執筆し、しかも原作ものではなくオリジナルという流れは、近年のテレビドラマでは減りつつあった展開だ。人気はじわじわと盛り上がり、今クール一番の話題作となった。何より若い視聴者に支持されたことがテレビドラマにとって明るいニュースとなった。

 物語は青羽紬(川口春奈)が、高校時代に付き合っていた佐倉想(目黒蓮)を偶然見かけるところから始まる。想とは大学入学直後に別れた。それ以来、想は他の同級生とも音信不通となっていたが、実は想が高校を卒業してすぐに「若年発症型両側性感音難聴」を患い、現在はほとんど耳が聞こえない状態となっていたことがわかる。

 想と再会した紬は、想とコミュニケーションを取るため、手話を習うようになる。想とは同級生で、現在は紬と付き合っている戸川湊斗(鈴鹿央士)も想のことを心配しており、想が高校時代の仲間たちといっしょに過ごせるようにフットサルの集まりに誘う。だが、湊斗は紬が想を思う気持ちを確信し、紬に別れようと言う。

 物語は想を中心にした恋愛ドラマとなっており、序盤は紬と想と湊斗の三角関係が描かる。そして物語後半は想と親しくしている聴覚障害者の桃野奈々(夏帆)と想と紬の三角関係と、紬が通う手話教室の講師・春尾正輝(風間俊介)と奈々の関係が描かれていく。

 つまり聴覚障害者と健常者の関係を、恋愛を通して描いたドラマなのだが、好きな人をめぐって二人が争うラブストーリーならではの修羅場を予想していると、物語は意外な方向へと流れていく。

 一番驚いたのは湊斗の描き方。紬と想は元恋人で、再会した二人の間に恋が芽生えることを湊斗が不安に感じるのは当然である。嫉妬した湊斗がしだいにおかしくなり、喧嘩別れで終わるとかなら「人間ってそういうものだよなぁ」と納得できる。だが、湊斗にとって想は大事な親友。だからこそ、孤立している想の居場所を作ろうとするのだが、その結果、紬と別れることを自ら選択する第4話を観た時は、びっくりして言葉を失った。

 次の第5話では、湊斗と紬が別れるまでの流れが淡々と描かれる。このまま一緒にいたら自分が「無理になる」、紬に「優しくできなくなる」、想にも紬にも「嫌われたくない」と語る湊斗の心情はとても複雑なものだ。だが、気持ちの伝え方は理路整然としており、相手を責めたり激高したりしない。その優しさは逆に残酷で、本当は想を好きな紬を恨んでいるのではないかと邪推したくなるのだが、明らかに美しい関係として描かれている。

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