『舞いあがれ!』気づけなかった赤楚衛二の苦悩 朝ドラが描いてきた一時的な夫婦の別れ
連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK総合)の第25週となる「未来を信じて」が放送された。舞(福原遥)は「なにわバードマン」時代の先輩、刈谷(高杉真宙)たちが取り組む「空飛ぶクルマ」の開発に協力することに。かつての「空に舞いあがる」夢を再度みんなで追いかけることになる。まるで当時の青春の続きを見るようで、胸の熱くなる展開となった。
だがその頃、貴司(赤楚衛二)は人知れず苦しんでいた。貴司はこれまでも、自分が抱える苦悩をうまく外に出せずにきた。会社員時代に追い詰められた時には、親や舞にも相談できずいっぱいいっぱいになり失踪してしまったことも。そんな貴司は今回もたった一人で1年もの間、短歌が詠めずに苦しんでいたのだ。舞も自分の夢や事業、歩(木下結愛)の子育てで無我夢中。一番近くにいたはずなのに、貴司の苦しみに気付くことができなかった。誰にも相談できずに抱え込んでいた貴司。一度は短歌を捨てようと創作ノートを仕舞い込む様子を見せたが、それでも「詠まない」という選択肢さえ貴司を苦しめる。そして貴司は舞と歩を置いて、フランスにいる八木(又吉直樹)の元へと旅立つのだった。
子供が生まれてからも変わらず夫婦で協力しあい、祥子(高畑淳子)のことも快く受け入れてきた貴司だけに、視聴者も動揺を隠せない。SNSには「貴司くんが心配」「パリ行きを舞ちゃんが後押ししてくれてよかった」などの声が散見された。
夫婦やパートナー同士が一時的に離れ離れになる展開は、近年の朝ドラにもあった。朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)では、主人公の喜美子(戸田恵梨香)が穴窯の陶芸に憑りつかれ、高額の薪代を工面しようと幼い息子の積立にまで手を伸ばす。「夢中」を描く狂気的な描写には、当時衝撃を受けた視聴者も多かっただろう。あのときの喜美子の目には穴窯に火を入れることしか見えていなかったのだ。夫の八郎(松下洸平)は、喜美子のそんな想いに寄り添うことができず、家を出てしまった。喜美子の妥協を許さぬ壮絶な戦いを思い返すと、自分が納得のいく作品を生み出すことがいかに難しいことであるのかを痛感する。喜美子の「生みの苦しみ」は貴司と通ずる部分でもあるだろう。
2人は離婚をするが、やがて再会。白血病の息子・武志(伊藤健太郎)を支えるために共に手をとりあい歩むことに。籍を入れないまま家族の形を再生するのであった。