“名画座”として続けていくために 新文芸坐×早稲田松竹の担当者に聞く、これからの映画館
映画館で観る喜びを感じてもらうために
――映画史に残るような旧作、特にヨーロッパ関係の作品は、配信サイトではなかなか観ることができません。DVDレンタル店もかつてより減少している中、名作クラシックを映画館で観ることができる名画座はとても貴重な存在だと感じています。
花俟:配信の影響かもしれないのですが、クラシックをはじめ、新作や普通の作品も客足は落ち込んではいるんですけど、ただ、今は過渡期だと思っていて。しばらくすると、「やっぱり映画館で観たいよね」という層が出てくると思うんですよ。そこまで持ちこたえて、いざ来てくれたときに「やっぱり映画館はスゴい!」と思わせてあげたい、という気持ちはありますね。潜在的に映画館で観たいという人は絶対にいるよね?
上田:いると思います。映画が好きになったら、映画館に行きたくなるし、映画館で映画を好きになったら、配信でもっと知らない作品を観てみたいし、と相乗効果的なところはあるだろうなと思います。だって、レンタルビデオショップができた時も、すでに経験したことだと思うし……。東京で名画となると、スタンダードなものもあるけど、ある程度コアなものや、なかなか観られないようなものも楽しみにしている人もいて。お客さんに王道とコアな部分をうまく提示しながら、ギリギリハンドリングしていけば、まだ何とかなりそうな気がしています。そう意味では名画座はまだしも、ミニシアター系の洋画公開は、規模が大きい分大変なのかなと。『トップガン マーヴェリック』のおかげで洋画の興行がいいように見えるけど、それ以外でミニシアター系の映画のスマッシュヒットの作品の数自体はかなり減っていると思います。
花俟:全然少ないです。興行収入の数字だけ見れば映画館にお客さんが戻ってきたように見えるのですが、ミニシアターには全然戻ってきていないんですよね。小さい配給会社さんも、「全然新作が入らない」と嘆いていました。
――口コミでミニシアターでヒットしたみたいなものは本当になかったですよね。『リコリス・ピザ』がギリギリかもしれません。「映画ファンの中で」という“括弧付き”な感じはありますが。
花俟:一部でちゃんと評価されていたり、盛り上がっていたりするものを引っ張ってくるしかなくて。新文芸坐は260席もあるので、なかなか実験的なことができないんです。日本のインディの映画も、面白いものを紹介したいからやるけど、実際やっても40〜50人ほどしか来なくて……。それが小さい劇場ならいいんだけど、うちみたいな現場でやっちゃうと、成功とは全然言えない。難しいし、もどかしいな、という感じですよね。「やりたい映画はあるのに」って。
上田:席数は本当に難しい。ちゃんと入っているときだと数字が大きいので、それとくらべちゃうと全然になっちゃいますよね。
花俟:人口もどんどん減ってきているし、映画の見方も減ってきているから、少なくとも僕はもう戻るとは全然思っていない。とにかく、存続させるために、いろいろなことをやりたいですね。
――新文芸坐さんも設備投資をされて、4Kなど新しいことができるようになったと思いますが、そのあたりは今どうプラスに反映されていますか?
花俟:十字架を背負ってしまったんですけど(笑)。ただ、このご時世で設備投資ができるというのは、とても光栄で恵まれていること。おかげさまで、4Kでこそ、みたいな作品で好評をいただいています。僕らの中で1番のトピックは、照明設備がついたことですね。個人的に面白いなと思ったのは、照明で遊べること。『アメリカン・ユートピア』はおかげさまで定着して、スタンディング、ライティング上映をやったりしているし、『劇場版 少女 歌劇 レヴュースタァライト』でも、ライティングをやったんですけど、かなり手ごたえがありました。「照明付き上映」という今のところうちでしかできないものは広げていきたいですね。あと、オンラインシステムを導入して、そこで一見さんに来てもらう。今のライトなお客さんって、劇場じゃなくて作品からどんどん辿ってくるじゃないですか。せっかく来ていただいたんだから「いろいろな作品をやっている映画館があるんだ」とか、「迫力がある映画館だな」とか、そう思って帰ってもらいたい。さっきの話の続きになっちゃいますけど、今、土日は2本立てをやらない感じになっていて。それはやっぱり、商売の面でもあるんですけど、土日しか来られない方もいるので、そこで作品の選択肢をいっぱい出したいなと。実際、「1本立て×3」などをやることによって、反発が起きるかと思ったんだけど、そこまではなくて。
上田:1本立ての料金設定が作られて、システム全体が入れ替わったときに、こうなるなと思ったし、今変えるのであれば、こういうふうに変えるよなというのはすごく納得しました。
花俟:今は2本立ても、1本立てでも割引で観られるようになってるんですよ。当日券のお客さんに、「2本続けて観ますか?」と聞きながらやっているんですけど。おじいちゃんとか「いや、1本でいいや」という人も増えてきていて。やっぱり選択肢があるのがいいなと思いますね。
上田:早稲田松竹は一般料金が1,300円で、ラスト1本割引だと800円で。
花俟:本当に早稲田さんの企業努力の賜物ですけど、お安いんですよね。
上田:安いです(笑)。
花俟:罪なところもありますよね(笑)。
上田:増税の時に値上げをするのか、という話が出たりもしたんですけどね。ずっとこのままで行くのかわからないですけど、でも、安く映画を楽しんでほしいです。
花俟:それに越したことはないですよ。
上田:「満喫していただきたい」という気持ちが我々も強いですね。本当に安いので、1本でも大丈夫だよって(笑)。実際、1本で帰られる方もいらっしゃるし。指定席になってから可視化されるようになったので。ほとんどの方が2本立てで観られますけど、やっぱりいますよね。ビジネス面だけで言えば、1本ごとにお客さんが入れ替わるほうがいいんですけど、2本続けて観てくれて帰る人がいない方が嬉しいんですよね。
花俟:すごくわかる(笑)。
上田:嬉しいですよね。やっぱり映画が好きな人が多いんだなって。お客さんが来ると、こっちも勇気づけられるというか。夕方からの2本立て+レイトショーで3本続けて観てくる方がたくさんいると、本当に嬉しいです。
花俟:それで、「メインじゃないほうが面白かった」と言ってくれると嬉しいよね。知らなかったとか。
上田:その一言で何回でもご飯いけるぞという感じですね(笑)。
――ほかの劇場の方の話は聞いたりされていますか?
花俟:ミニシアターの知り合いの方々はみんな厳しいと聞いています。
上田:そんな状況でも各劇場のプログラムを見ていると本当に工夫しているなと感じるところも多くて。カッコいいなって。
花俟:もう工夫することが生き残るための最低条件になっているよね。新作洋画がかつてのような需要がなくなる中で、どう組み合わせるか、どのタイミングで上映するかというのが本当に大事になっていると思います。
上田:だからこそ、当たり外れのリスクが比較的少ないリバイバル上映が増えている部分がありますよね。評価が安定している、かつ上映するにあたってのコストも新作に比べればかからないですし。ただ、それを差し引いても最近のリバイバル作品は尖っているのが増えている印象です。
花俟:そうだね。シャンタル・アケルマンの特集上映がヒットしていたのもとても良かった。ただ、それが喜ばしい反面、コアな映画ファンを刺激する特集だと、どうしても広がりが生まれないので、長い目で見たときには大丈夫なのかなという心配もある。
上田:たしかに。早稲田松竹で久しぶりに『ニュー・シネマ・パラダイス』を上映したとき、若い人たちが「映画館で観たかった」とたくさん来てくれたんですよ。王道・鉄板コースも、もうちょっとやっていかないといけないな、と思いましたね。
花俟:少し気恥ずかしく思ってしまうときがあるけど、それは大事だね(笑)。
上田:鉄板コースをしっかり上映して、ファンを作っていく。映画館で観る喜びを感じてもらった後に、コアな作品にも一歩踏み出してもらえるようになっていくのが理想ですよね。
花俟:本当におっしゃる通り。今の尖ったリバイバルブームは、映画館で観る喜びを知っている人が「レアだから観に行く」ということだと思うので、それとはまた違う視点が必要かなと。僕らは配給側ではないので、偉そうなことは言えないけど。現場の人間としてはお客さんを“育てていきたい”よね。若い子が来て、喜んでいるのは、すごく嬉しいから。
――漫画『チェンソーマン』の作者が映画好きで、作品の中で引用をしているんですよね。若い世代の中で、その元ネタを知りたいから映画に行ったり、配信で調べたりする人がいるみたいです。
上田:引用してるものって、気づかれないレベルのものもいっぱいあるかもしれないけど、映画史的に有名作品が多く、配信でも観られるわけじゃないですか。一方で、(1925年公開の)『戦艦ポチョムキン』を上映したら、若い人たちが来るんですよ。「いつの映画よ?」って話で(笑)。古いとか新しいとか関係なく、それでもやっぱり観たい人は常にいて。これが地方だと全然話が違うと思うんですけど、東京の名画座で、となるんだったら、その辺はしっかり押さえ続けないといけないなと思います。やっぱり、そういった名作プログラムでお客さんが集まるようにしたい。多少プログラムを複雑にしてでも、週全体が盛り上がっている感じにできるなら続けていきたいですね。映画館通いは、生活と近いと思うんですね。「映画通い=生活」の中には結構楽しいものがたくさんあるじゃないですか。あそこの駅に行ったら、あの食べ物があるとか。ミニシアター・名画座は、いろいろな街に行く機会になる。行くのが億劫だという人もいるかもしれないけど、映画館だけじゃないんです。早稲田松竹だったら、早稲田通りは天気が良い日に歩くと気持ちいい一本道だし、駅からそんなに遠くないし、帰りはまた映画のことを考えながら帰るとか、その全体を楽しんでほしいです。ライフスタイルみたいなことなのかもしれないけど、それ自体をもっとお勧めしたい。
花俟:やっぱりいいことをおっしゃいますね。
――僕も東京の地理はそれで覚えました。新文芸坐さんは最初に行った時は途中の道がすごい怖くて(笑)。
花俟:そうなんですよ(笑)。でも、そういうドキドキも体験になる。映画館で映画を観ることと、街を知る楽しみはつながっていますよね。
――改めてお話を聞くと、いかに両館ががんばっているかということが伝わりました。
上田:さっき、Twitterで早稲田松竹と検索したら、「早稲田松竹と文芸坐があるから、東京を離れがたい」と書いてあって。この一言があるから辞められないですよね。
花俟:本当だね。やりがいはあるし、これからも観客の皆さんに喜んでいただける映画館でありたいですね。
■劇場情報
「新文芸坐」
東京都豊島区東池袋1-43-5 マルハン池袋ビル3F
池袋駅東口徒歩3分
公式サイト:https://www.shin-bungeiza.com/
「早稲田松竹」
東京都新宿区高田馬場1-5-16
高田馬場駅早稲田口徒歩5分/早稲田駅2番出口徒歩5分
公式サイト:http://wasedashochiku.co.jp/