新文芸坐×早稲田松竹×キネカ大森、編成担当が語り合う“名画座”ならではの特集上映の組み方
若年層映画ファンの意識の変化、SNSの普及などで、改めて注目を集めている名画座。DVD、Blu-rayだけではなく、配信サービスによって今まで以上にいつでもどこでも映画を観ることができる環境となったが、旧作をスクリーンで観る醍醐味に多くの観客が年々魅了されている。
リアルサウンド映画部では、多彩なプログラムで人気を集める東京の名画座3館の番組編成による座談会を企画。新文芸坐の花俟良王(はなまつ・りょお)氏、早稲田松竹の上田真之氏、キネカ大森の渋谷実里氏に、番組編成のコンセプト、劇場に訪れる観客の変化など、熱く語り合ってもらった。
また来たいと思ってもらうために
ーー多彩なプログラムで映画ファンからも注目を集める3館ですが、まずは2018年会心のプログラムからお話いただけますか。
花俟良王(以下、花俟):2018年は新しい試みを模索した1年間でした。細かいプログラムでご迷惑をかけていると思うのですが、本当にいろんなことをやっています。特に印象的だったのが、年末に行った森田芳光監督の全作品上映。森田監督の奥様である三沢和子さんと、RHYMESTER・宇多丸さんが作品ごとに1時間の解説を行うという本当に贅沢な特集となりました。1986年の『そろばんずく』は公開当時は多くの人が「ポカーン」とした作品だったんですが、今観たらめちゃくちゃ面白い。森田監督は時代の先を行っていたんだなと改めて感じました。若い人も多く来場してくださり、非常に有意義な特集になったかと思います。
ーー監督の特集上映はあっても、全作品を時代順に上映するというものはなかなかありません。
花俟:そうですね。時代順に上映していったからこそ森田監督の真髄がより分かるものになったかと思います。ほかに印象的だったのは、役者の方々の追悼上映です。新文芸坐はプログラムが多すぎる分、番組がなかなか確定しないので、だからこそ急逝された方の上映も行うことができました。特に西城秀樹さんの出演作上映は、年間屈指の動員でした。
上田真之(以下、上田):外から見ていても西城さんの特集上映の人気にはびっくりしました。新文芸坐さんのプログラムのすごいところは、東京の観客だけではなく、地方からの来場者も集めているところにあると思っています。
花俟:韓国から来られた方もいたんですよ。あとびっくりしたのは、売店でブロマイドがめちゃめちゃ売れたこと。商品を出してくれたマルベル堂さんからも、「強気でどんどん出してくれ」って(笑)。西城さんのライブツアーに密着したドキュメンタリー映画『ブロウアップ・ヒデキ』の応援上映を1回だけ開催したのですが、この熱気も本当にすごかったです。年齢層が高いので最初はどうなるかと思ったのですが、上映後に泣きながら「本当にありがとうございました」と声をかけてくださる方もいて感動しました。ロードショー館にはなかなかできない、名画座ならではの番組だったと思いましたね。
ーー早稲田松竹の上田さんはいかがですか。
上田:印象に残っているのは、「ペドロ・コスタ レトロスペクティヴ」です。この数年、都内でもアートシネマの特集上映を行う劇場が減ってきていると感じています。それなら早稲田松竹が少しでもその役割を担えないかと思い、企画した特集でもありました。2016年にペドロ・コスタの『ホースマネー』が公開されたときも都内で特集が行われていたのですが、そのときはあまり盛り上がっていない印象でした。なので、今回もどうなるかと思いながら準備を進めていたのですが、大学生を中心に予想以上の集客でした。大作ではない特集の企画でもこれだけ観たいお客さんがいると知ることができた機会でもあったので、今後もアートシネマといわれる作品も拾い上げていきたいと思っています。
花俟:それが早稲田松竹さんの強みだよね。年末に王兵監督の『鉄西区』(上映時間545分のドキュメンタリー)をオールナイト上映していたけど、絶対にうちじゃ無理だもん。ペドロ・コスタみたいな作品も上映したいんだけど、うちはゾンビやアクションといったイメージが強すぎて……。
一同:(笑)。
花俟:池袋と高田馬場で距離も近いのに、客層が全然違うのが面白いなと思いつつ、羨ましいなと思います。
上田:お客さんも各劇場のカラーをやっぱり熟知されていますよね。ペドロ・コスタや王兵のオールナイト上映ができたのも、その前に王兵の『鳳鳴(フォンミン)― 中国の記憶』の集客が予想以上によかったのが決め手でした。尖った作品でも観たいお客さんは絶対にいる、そしてその1本が成功するとまた次の企画にも繋がる。知名度の高い作品の企画ももちろん必要ですが、いろんな切り口と組み合わせを提示しながら、お客さんにも映画の幅を一歩一歩拡げていただける劇場になることができればと思っています。
ーーそして、今回の企画を花俟さんにご相談したとき、「若手の番組編成で頑張ってる人がいる」と紹介していただいたのがキネカ大森の編成を務める渋谷さんでした。改めて編成の仕事はいかがですか。
渋谷実里(以下、渋谷):編成の仕事に就くと決まってから、各名画座さんを回り、花俟さんにもアドバイスをいただきました。皆さん、「楽しんでやったほうがいいよ」とおっしゃってくれたのですが、最初は楽しむどころではない感じで……。これで本当にいいのか、キネカ大森の歴史を壊すんじゃないかと怯えながら日々格闘していたんです。でも、“名画”は人それぞれですし、絶対に正解があるわけでもない。それなら、まずは私がいいと思ったものを組み合わせていこうと。
キネカ大森はほかの名画座さんと違って、スクリーンが3つあります。ひとつはロードショー公開のファミリーもの、もうひとつは2番館(小ロードショー公開後数カ月経ったもの)として、そして名画座という構成です。ファミリー向けの『妖怪ウォッチ』、R15指定のバイオレンス『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』、フェデリコ・フェリーニの『甘い生活』という、まったく相容れない3作品が同時に上映していることもありました。老若男女どの世代にも応えることができるのがキネカの強みかなと思っております。
花俟:キネカ大森さんの幅の広さは本当に羨ましいです。渋谷さんになってから明らかにプログラムも変化してきているので、3スクリーンある強みをどう活かしていくのか、今後が楽しみです。
渋谷:よくいえばバリエーションに富んでいる、悪く言えば雑多ということもあり、キネカ大森はなかなか劇場としてのカラーが作りづらいなと感じています。対して、新文芸坐さんも、早稲田松竹さんも名画座の中でも屈指のカラーを確立されていて。おふたりはどうやってそのカラーを作っていったんですか。
花俟:旧作邦画は主に支配人が担当していますが、「映画の垣根をなくしたい」というのが僕の出発点で、そこから逆説的にオールナイトの企画を考えていました。ジャンル無視でとにかく尖った面白さの作品を集めた「極端映画祭」を企画したときは、上司からは訳が分からないと突っ込まれましたが(笑)。
渋谷:昨年末の「年末に浮ついてる人戒め企画 一番怖いの人間ナイト」(『怪怪怪怪物!』 『ダウンレンジ』 『ミスミソウ』 『REVENGE リベンジ』)もすごい企画でした。お祝いモードの作品を並べるのが普通なところに、ここまで冷や水ぶっかけるような企画は新文芸坐さんならではだと思います(笑)。
花俟:普通に言えば「2018年バイオレンス秀作選」などになると思うのですが、それだと響かないかなと。
渋谷:これが花俟さんの持ってるセンスですよね。
上田:「垣根をなくして見せたい」という花俟さんの意図がこの企画のネーミングにもよく表れていると思います。
花俟:オールナイト上映は敷居の高いものではまったくないので、まずは「くだらないイベントやってるぞ」という感覚ででも知ってもらえたらなと。上映する作品は間違いないものを選んでいるので、自信があるときほどこういった特集タイトルを付けています。最近は、上映前に前説的なことも行っているのですが、なんとなく足を運んでくれた方が、「映画」そのものに興味を持ってくれたり、またこの劇場に来たいと思ってもらえるように心がけています。
渋谷:Twitterでも花俟さんの前説は好評ですよ。
花俟:それはとても有難いんですが、まだまだですよ。