『舞いあがれ!』『ちむどんどん』『スカーレット』 朝ドラが肯定する人生の“遠回り”

『舞いあがれ!』朝ドラが肯定する“遠回り”

 一方、一見行き当たりばったり人生の感があるのが『ちむどんどん』の暢子だ。

 亡き父に教えてもらった沖縄そば作りに端を発し、料理が好きになり、地元高校料理部対決の料理コンテストに助っ人として参加して優勝したことから、東京で料理人になることを宣言。しかし、沖縄料理居酒屋「あまゆ」に下宿させてもらいつつ、その紹介で西洋料理人修行を始めたときには疑問を感じずにいられなかった人が多いだろう。

 しかも、西洋料理人として実力をつけたはずが、結婚と共に沖縄料理の店を持つことを宣言したとき、さらに故郷の山原村に移住したときには「結局、なんでイタリア料理を修行していたんだ?」とますます疑問を感じた人が多かったはず。

『ちむどんどん』視聴者が見守ってきたヒロインの成長を総括 暢子の料理人人生の道のり

にんじんしりしりー、ニガナの白和え、パパイアンブシー……テーブルに所狭しと並んだ沖縄料理は、暢子(黒島結菜)の幼少期の比嘉家の食…

 実のところその本当の理由は今もよくわからない。しかし、暢子きょうだいの行き当たりばったり人生の土台には、沖縄が本土に押し付けられ、背負わされてきた負の歴史と諦めや「貧困」が無縁とは言えない気がする。

 そして、そうした時代的・地域的な要因がヒロインに遠回りの道を歩ませたのが、まさに『舞いあがれ!』でもある。

 子どもの頃から飛行機が好きだった舞は、大学の航空工学科に入学&人力飛行機サークル「なにわバードマン」で人力飛行機のパイロットを経験し、「飛ぶ」ことの楽しさを知ってしまったことで、大学を中退し、航空学校へ入学。無事に航空会社への就職が決まり、卒業を果たしたものの、リーマンショックの影響により、就職が1年延期となり、家業を手伝ううち、父が亡くなり、工場を母と共に再建していく流れとなった。

 人の気持ちに敏感で、常に慎重で後方確認する舞だからこそ、目の前の状況を受け流すことができなかった結果としての選択である。しかし、同作の公式が更新した2月2日分のニュースでは、五島での最終ロケを行ったこと、撮影したのは「ヒロイン・舞がこれまで出会った人々の協力を得て、五島で電動小型飛行機の飛行に挑むシーン」だったことなどが明かされている。つまり、最終的にはおそらく家業のIWAKURAの新しいチャレンジと、五島の町おこしとをつなぐきっかけに「電動小型飛行機」が作られ、舞が再び操縦桿を握る日が来るのではないだろうか。

 時代の波に巻き込まれ、地域や家庭の事情に流されつつも、懸命に生きてきた先にたどり着く未来を、近年の朝ドラの「遠回りの人生」は示している気がする。常に荒波に抵抗するばかりが重要ではないこと、苦しいときにじっと耐え、ときには流され、その先に思いがけない道が拓ける可能性を感じさせてくれる、朝ドラヒロインたちの「回り道」。

 こうした「回り道」「遠回り」を肯定する朝ドラは、人生100年時代に希望を与える作品として、今後の一つのスタンダードになるかもしれない。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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