『舞いあがれ!』三谷昌登には脚本家の顔も “二足のわらじ”で朝ドラを支える稀有な俳優
「ええ気なもんやなあ!」
町工場を近隣の人たちに知ってもらうためのイベント・オープンファクトリーを成功させた舞(福原遥)と参加した町工場の人たちが、水を打ったように静まり返った。その声は、『舞いあがれ!』(NHK総合)第22週から新たに登場する、小堺(三谷昌登)のものだった。
小堺は野球場などで使われる菱形フェンスを製造する町工場の経営者。舞と同じく父親から工場を引き継いだようなのだが、次第に需要が減り、さらに安価で大量に生産できる大手に仕事を取られ、経営状況が悪化していた。そんな状況の中、わいわいと盛り上がっている舞たちの様子が癪に触ったのだろう。
「スクラムを組めるのは体力のある会社だけ」「みんながみんな、自分らみたいに余裕があると思うなよ」と不満をぶちまけ、小さな飛行機の模型も振り上げて壊そうとしてしまう。酒の勢いもあるのだろうが、その言葉に嘘はないのだろう。本人も八つ当たりをしているという自覚があるのか、雪乃(くわばたりえ)や勝(山口智充)に「飲みすぎやな」と優しく言われながら席に戻る小堺は申し訳なさそうにしていた。大きく肩を落として歩くその後ろ姿はとても寂しそうだ。
小堺を演じる三谷昌登の朝ドラへの出演は、本作で7作目。『カムカムエヴリバディ』ではひなた(川栄李奈)が所属する条映撮影所の助監督、『とと姉ちゃん』では終戦後、常子(高畑充希)ら姉妹が創立した出版社「あなたの暮し出版」の社員を演じている。
また、自身が旗揚げした「劇団6.89」で脚本も担当している三谷には、実は“朝ドラ脚本家”としての顔もある。火鉢の絵付け師・フカ先生こと深野(イッセー尾形)の弟子としても出演し、“二番さん”としても親しまれた『スカーレット』では、ヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)の幼なじみである信作(林遣都)と百合子(福田麻由子)夫妻を中心とした特別編「スペシャル・サニーデイ」の脚本を担当。第21週、1週間分の脚本を書き上げている。『あさが来た』では、本編への出演がないにもかかわらず、あさ(波瑠)の婚家・加野屋に勤める亀助(三宅弘城)を主人公にしたスピンオフ『あさが来た スピンオフ 割れ鍋にとじ蓋』を担当。このように三谷は陰に陽に朝ドラを支えている、稀有な俳優なのである。