仲里依紗の魅力が最大限に発揮された『大奥』 可憐で切ない徳川綱吉役を振り返る
NHKドラマ10『大奥』で5代将軍・徳川綱吉を演じた仲里依紗。彼女のYouTubeチャンネルでは朝、寝起きの状態から準備をしてスタジオに向かい、メイクや鬘を整えて威光を放つ“上様”になるまでをポップな映像で紹介している。
その中でも、本作が初めての時代劇出演であること、独特な台詞の言い回しや豪華絢爛な衣装での所作に苦労していることなどを明るく語っている。それにしても、俳優としてのスイッチが入った仲里依紗は怖いものなし……と思えるほど、徳川綱吉として作品の世界観を余すところなく体現。スイッチが入ることでその役柄の人生を背負う覚悟までできてしまうのだろうか。
艶やかで妖艶な魅力を振りまきながらも、父・桂昌院(竜雷太)からはただひたすら世継ぎを産むことを期待され、その役目は自分に与えられた使命だと思い込んで生きてきた綱吉。父親の理不尽で残酷な要求に対して綱吉は抵抗できない。欲望渦巻く大奥で孤独を募らせつつ、空虚な目で男たちを眺めながらも、彼女は全てを諦めたわけではない。絶望感に苛まれながらも生きる力を失わない強い女性、そんな複雑な内面を抱えた人物を演じられる希有な才能の持ち主、今回のこの綱吉役は仲里依紗の本領発揮といってもいいだろう。
京から大奥にやってきた、貧しい公家出身の右衛門佐(山本耕史)との関係の変化も本作の見どころの一つだった。有能な右衛門佐は大奥で成り上がろうと手を回し、狙い通りに大奥総取締の座に就く。そんな右衛門佐のことを桂昌院は「曲者」と警戒していた。
江戸の庶民からは「公方様は、当代一の色狂い!」とまで言われ、父の桂昌院からは学問に熱中しすぎて視力が落ちたら目つきが悪くなって器量(見た目)が悪くなる。とにかく美貌と愛嬌さえ良ければいいと、見栄えだけ磨くことを求められて育った綱吉。
博学で頭のいい右衛門佐は、愛らしく着飾った綱吉のことを当初は軽く、甘くみていたのだろう。大奥の中であれこれ根回ししていたことを綱吉に気づかれ、『韓非子』の講義中に「図に乗るなよ! 佐!」と声をあげた綱吉に驚く右衛門佐。そして、「たかが総取締ごときが、私や父上、この徳川を動かせると思うたら大間違いじゃ」と威厳ある態度で叱責。そして、「そなたの命など、私の心ひとつじゃ。だまされてやっておるうちが花と思えよ。佐」と、すぐに表情を緩ませる。
「ただのお飾りの将軍だと見くびるな」「欲得で勝手なまねをしてもすべてお見通しだからな」という見事な圧のかけ方。扇子を使っての右衛門佐に対する顎クイの仕草も印象的で、確実に右衛門佐が上様を見る目が変わった瞬間でもあった。