『大奥』仲里依紗が恋に生かされ、殺される 欲望渦巻く「綱吉・右衛門佐編」が終幕

『大奥』仲里依紗が恋に生かされ、殺される

「みな上様に恋をしているのでござります」

 この甘美な魅力を持った言葉に綱吉(仲里依紗)は生かされ、殺された。

 NHKドラマ10『大奥』第7話をもって、「五代将軍綱吉・右衛門佐編」が終幕。この編は華やかな打掛を羽織った綱吉が御鈴廊下を歩くところから始まったが、一番の見どころはその打掛を綱吉が脱ぎ捨てる場面といえよう。綱吉が自分を縛り付けていたものから解き放たれた瞬間の何とも清々しい表情が胸を打つ。彼女を苦しめていた父・桂昌院(竜雷太)の呪縛。解いてくれたのは2人の人物だった。

 うちひとりは八代将軍吉宗(冨永愛)だ。紀州徳川家の二代目藩主・徳川光貞の三女として生まれた彼女は幼い頃に一度だけ綱吉と邂逅を遂げている。その際、綱吉はいつか夫や側室を持つであろう吉宗に、もう少し身なりに気を遣ってはどうかと櫛(くし)や簪(かんざし)を授けようとした。しかし、それは必要ないとする吉宗。美しい女に興味のない男もいるはずであり、自分はそのようなものを選べばいいのだと。

 それを受け、綱吉はその表情を一瞬だけ陰らせ、今度は嘲笑う。吉宗に対してではなく、自分に対してだ。彼女は気づいたのだろう。どんなに教養を身につけようとも「女は器量と愛嬌」と心から認めてくれることはなかった桂昌院の精神を自らも受け継いでいることに。幼き吉宗の聡明さが綱吉に植え付けられた毒種を取り除いたのだ。

 だが、毒はすでに身体中を回っていた。「欲得抜きで私を慈しんでくれたのは父上だけ」と、桂昌院がどんなに自分を苦しめた存在であろうとも見捨てられない綱吉の哀しさは現代にもある。いつの時代も子を所有物のように扱う親は存在していて、彼らは必ずと言っていいほど愛情を盾に子を憎ませてくれない。でも桂昌院が振りかざした愛情は綱吉に向けたものではなく、尊敬する有功(福士蒼汰)に向けたものだ。世継ぎを生むという将軍の使命のために人生や愛するもの奪われた有功に顔向けできる自分でありたい。その望みのために娘を利用しただけであると、厳しくも真実を突きつけるのが右衛門佐(山本耕史)である。

 彼もまた、本来ならば欲得抜きに愛してほしかった家族に利用され続けてきた。器量が良かろうと学があろうと、他のものより良質な種付馬として喜ばれるのみ。だから今度は身体を使わず、大奥で成り上がろうとした。そのために、天下人であろうとも憎き女である綱吉を利用するつもりだったのだろう。しかし、彼女を知り、彼女も自分と同じ苦しみを抱えていることに気づいた。そして、思わず右衛門佐が綱吉を抱きしめたあの日から、心では互いを想い合っていた二人。切ない恋の駆け引きに終止符を打ったのは右衛門佐の方だ。「私の夢やったんや」と綱吉を抱く右衛門佐。そこにいるのは紛れもなく男と女、しかし生殖という役目から解放された男女である。

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