仲里依紗の魅力が最大限に発揮された『大奥』 可憐で切ない徳川綱吉役を振り返る
将軍として威厳のある態度といえば、元禄15年12月14日に起きた赤穂浪士四十七士討入りに関する裁き。老中の一人が「ここは一つ、何とかご助命をお考えになっては下さいませぬか」とお伺いを立てると、語尾強めの「は?」と怒りを抑えきれないどころか、全く納得できない様子の上様。「逆恨みをし、老女をなぶり殺しにした者たちを助命しろと申すのか。正気か!? そなたら!」と喧嘩上等の表情も後光が差しているかのごとく美しい。
「生類憐れみの令を出しておきながら、お上が四十人もの男子たちを処罰するとは、これまた道理が通らぬという話も起こっているようにございます」と低姿勢ながら一人の老中がさらに踏み込む。すると、「分かった、あい分かった」と綱吉の表情が変わった。「では打ち首ではなく、切腹を命じよ。そうじゃ、ついでに以後武家において男子を跡目とすることを禁ずると申し伝えよ。男を政に関わらすゆえ、かような血生臭いことが起こるのじゃ」と、自分の判断に自信を持ち、少しの揺らぎもなく、言い放つ。
聡明な判断力を持ちながらも、桂昌院のために「生類憐れみの令」を取り下げる決断は下せない。本来なら、「生類憐れみの令」を出すと言い出した時の桂昌院に対して、やや呆れ、子供ができたら、彼女はもっと早く自由になれていたのかもしれない。
8代将軍・吉宗(冨永愛)が信と呼ばれていた子どもの頃に一度だけ綱吉と会った日のこと。地味な着物を着て、飾り気のない信に「そなたもいずれ夫や側室を持つであろう。もう少し身なりに気を遣ってはどうか」と言葉をかけると、信は美しい男に興味がないと言う。ならば美しい女に興味がない男もいるわけで、信はそういう男を選べばいいのだと物怖じせずに答える。その潔くも、もっともな答えに綱吉は笑った。自嘲的に、涙を流すほど笑い、信のようなシンプルな発想が自分になかったことに気づいた。
子どもの頃からずっと自分をがんじがらめにしていた親の呪縛から解放され、欲得抜きで自分を慈しみ愛し合える存在に気づいた綱吉。その少女のような無垢な表情も可憐で、仲里依紗の演技の説得力には、ただただ圧倒されてしまった。
■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社