『舞いあがれ!』八木莉可子が“清らかな不穏さ”を巧みに表現 適応力で成り立った史子役

『舞いあがれ!』八木莉可子の適応力が際立つ

 気がつけば折り返しを過ぎ、間もなく佳境を迎えようとしている朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)。物語が新たなフェーズへと突入すれば、当然ながらそれを盛り上げる新たなキャラクターが登場する。いま注目すべきなのはやはり、八木莉可子演じる秋月史子の存在だろう。突如現れた彼女の一挙一動からは目が離せない。

 秋月史子とは、本作のヒロイン・舞(福原遥)の幼なじみである梅津貴司(赤楚衛二)の大ファン。貴司はいまとても勢いのある、そして大きな注目を集める歌人である。彼の詠んだ短歌に感銘を受け、活動拠点である古本屋「デラシネ」にやってきたのだという。貴司は一度人生につまづいて苦しんだ人間だが、史子もまた苦労人であるらしい。そんな彼女を救ったのが貴司の短歌。彼女自身も短歌を詠むが、これまでは誰にもそれを見せられなかった。しかし、敬愛する貴司になら見せられる。貴司にだけ見てほしいーーそのような想いを抱えて、『舞いあがれ!』の世界に、舞の目の前に現れたのである。

 史子は自身のすべてを語っているわけではないため、その全貌は明らかではない。しかし一つ言えるのは、いまの舞にとって“壁”だということ。もちろん、舞と貴司の間に立ちはだかる壁である。あまりヒロインの恋愛事情について言及したくないところだが、ここ最近はあからさまに舞と貴司の関係性の変化をほのめかす展開が続いていたし、実際それについて舞自身も言葉を発している。彼女はまだ自分の貴司に対する気持ちに自信を持てていないが、少しずつその形が見えてきているところではある。そこへ史子という壁が登場したのだ。

 史子の第一印象は、たおやかな人だということ。八木の演技も控えめで自然体。作品の世界観が出来上がっている状態での初登場は、ともすると視聴者にとって“異物”になりかねない。コーヒーにミルクを落とせばやがて溶け合うが、しばらくは黒と白とが同居している状態が続く。しかし八木の場合はすっと馴染むように、まるで温水に冷水が加わったかのように清らかに登場した。彼女より少しだけ早く登場していた貴司の担当編集者、リュー北條(川島潤哉)のアクの強いキャラクターや、あえて自ら異物感であることを強調するような川島のオーバーな演技とは対照的だ。八木の適応能力の高さが感じられる。

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