『舞いあがれ!』横山裕の涙が画面越しに伝播する “痛み”を伴う後悔と懺悔の名演技

『舞いあがれ!』横山裕の後悔と懺悔の名演技

 あれだけ何重にも自身の心にバリアを張り、弱みは人に絶対に見せず泣き言一つ言わなかった悠人が初めてポロポロと涙を流す度、こちらにまでヒリヒリとした感情が伝播してきた。「舞、言ってたよな。失くなったものは二度と取り戻されへん。後から悔やんだって遅いんやって。それ、ほんまやったわ。仕事も信用も親父と話し合うチャンスもどんだけ後悔したって二度と取り戻されへん。親父、ごめんな」と、初めてその後悔を認めた。

 舞がIWAKURAへの投資をお願いした際に最初は即答でその申し出を断っていた悠人。その際「工場なくなってしもたら、二度と取り戻されへんねんで。後から悔やんでも遅いんやで! 喧嘩したまま、二度と会われへんようになったんと同じで」と舞に言われたことがずっと心に引っ掛かり続けていたのだろう。浩太が突然亡くなった第14週のタイトル「父の背中」が、ここにきてまた説得力を持って悠人に迫る。浩太の背中は大きく、そしてあったかかった。

 子どもの頃から匂いと機械音がうるさい工場一帯を嫌い、地道に汗を流し愚直にものづくりに情熱を傾ける浩太の働き方に反発していた悠人。きっと“反発”しないと気が済まず跳ね返せないほど、父親のその仕事に対する熱量に、ある意味、悠人自身が理解はできずとも、魅せられてきたのだろう。

 亡き浩太が残してくれた言葉が、その生き様が、わだかまりを溶かし、悠人に進むべき道をそっと照らし、力強くその背中を押す。岩倉家がまた一つになった。優秀で自分のことは自分で全てやってのけてしまえる、そんな悠人が、自身の弱さを認め人前で吐露する強さを手に入れた。そんなの鬼に金棒ではないか。悠人が肩の荷を一つ下ろし、必要以上に悪役も嫌われ役も買って出ることもなく、もっともっと彼そのままで生きやすくなることを願うばかりだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる