『舞いあがれ!』横山裕の涙が画面越しに伝播する “痛み”を伴う後悔と懺悔の名演技

『舞いあがれ!』横山裕の後悔と懺悔の名演技

 悠人(横山裕)のインサイダー取引疑惑を報じるニュース番組から始まった連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK総合)第19週。

『舞いあがれ!』横山裕が悠人の絶望を体現 虚ろな姿に“寄る辺のない寂しさ”が浮かぶ

「雨、やむんやろうか……」  IWAKURAは社長であるめぐみ(永作博美)の堅実な経営判断の連続でようやく嵐をくぐり抜けた。し…

 何事も冷静沈着で、実は誰よりも家族やIWAKURAのことを心配しているのに、言葉足らずなところも多々あり、何かと誤解されやすい悠人。そして人に頼ることがとことん苦手で、周囲に心配をかけることも迷惑をかけることにも気が引けてしまう。いつだって自己完結型で1人で悩みを抱え込んでしまいがちだ。それはもしかすると、幼少期から身体が弱い妹・舞(浅田芭路/福原遥)のことばかり心配する両親の姿を目の当たりにしてきた影響もあるのかもしれない。自分だって寂しいし誰かに頼りたいのに、その甘えたい気持ちを素直に表現できずグッと飲み込み、我慢する術を身につけざるを得なかった、人よりちょっと早く大人になるしかなかった悠人には必要な処世術だったのかもしれない。

 「お兄ちゃん、意地張らんと来たらよかったのに」とは、舞が幼い頃、父・浩太(高橋克典)と遊園地へ出かけた際にポツリと呟いた言葉だ。舞が作った紙飛行機を少し離れた場所でポツリと眺めていた悠人のどこか寂しげな姿が思い出される。

 父・浩太との最期だってそうだ。浩太が亡くなる前、悠人は借金がこれ以上膨らむ前に工場を売却した方がいいとあくまで投資家目線で提案。彼も家業を心配しての発言だったに違いないが、リスクヘッジを最優先したあまりにクールで端的な物言いに、浩太はそう簡単に割り切れるものではないと反論。「結局おやじは現実を見る勇気がないねん!」と言い放った悠人に「帰れ!」と応酬する浩太……。肝心なところで素直になれないのはある意味“似た者同士”とも言える2人だったが、これが彼らの最後の会話になってしまった。

 これまでの人生の中で初めての大きな挫折にぶち当たり自暴自棄になってしまった悠人。しかしそこから救い出したのもまた、今は亡き父・浩太から息子への知られざる想いや本心だった。舞から手渡された浩太の日記を読み、自分のことを褒め認める一文に「そんなん一回も言ってくれへんかったやん」「親父、俺のことわかろうとしてくれてたんやな。生きてる間に言ってくれたら良かったのに」とポツリポツリとこぼれる悠人の本音。父親の想いに触れる度、自分の中で蓋をしてきたのであろう“あの時こうしていれば……”という後悔や懺悔が徐々に湧き出てきて、向き合えば向き合うほど悠人の心に血が通い、そして痛みが伴う さまを横山があまりに自然に見せてくれ、引き込まれた。悠人はただただ浩太に認めてもらいたかったのだ。浩太とは同じ道を歩めなかった自分のことを。

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