染谷将太ら役者陣も最高の演技 『いちげき』が“平ら”にした現代社会にも通じる“呪い”

『いちげき』が“平ら”にした“呪い”

 新年早々、凄まじいものを観た。宮藤官九郎が脚本を手掛けた正月時代劇『いちげき』である(NHK総合)。「正月時代劇」枠、さらには「本格青春エンターテインメント時代劇」という文言で想定し得る爽やかさ、明るさはあまりなく、ひたすらにシビアに、非正規部隊同士の「殺し合い」を描いていた。

 染谷将太演じる丑五郎(ウシ)たちが最後に見出したものは「希望」であるとも言い切れず、青春活劇の末にありがちな「成長」という言葉でおさめることすらできない。だが、現代社会の構造をも重ねずにはいられない、とても残酷な社会構造の底辺に置かれた彼ら百姓たちが、副題通り「あなどれない!」のは、「一撃必殺隊」としての活躍ぶりでも、「バケモノ」伊牟田(杉本哲太)に勝つことでもなく、自分たちの力で、あらゆる「呪い」を取っ払い、物事を「平ら」にする力なのではないかという視点で、本作のことを考えてみたい。

 まず、特筆すべきは俳優たちの好演である。冒頭、やがて殺される男・前之助(楽駆)が振り返りざまに見る顔が、主人公・ウシの顔だった。その得体の知れない男の顔は、視聴者が今までに観たことのない染谷将太の顔だった。とんでもないドラマが始まった瞬間だった。

 一方、武士への強い憧れを持つ市造(イチ)を演じた町田啓太もまた、ウシと好対照の魅力を見せた。NHK大河ドラマ『青天を衝け』で好演した土方歳三役は、登場時、既に大成した後の姿だったが、本作のイチはどこか「元は百姓で武士になった」土方歳三の若かりし頃を重ねずにはいられないものがある。また、彼らの上司である島田を演じた松田龍平の、時代劇と現代劇の垣根さえも取っ払い、畏怖と親しみの両面を魅せる自在な演技はまさに絶品であり、島田という「推し」を愛でるキクを演じた伊藤沙莉、人気女郎/ウシの妹の2役を演じた西野七瀬も素晴らしかった。

 本作は、小説『幕末一撃必殺隊』を原案にしたコミック『いちげき』を原作に、農民を集めて結成された戦闘部隊「一撃必殺隊」の活躍を描いた。語りである神田伯山が言うように「時は、幕末」にもかかわらず、本作には、「でるとホッとする」幕末の偉人がほとんど出てこない。勝海舟(尾美としのり)が出るには出るが、主人公たちの死闘も「お百姓さんたち、すごいんだね」としか思っておらず、端から彼らを捨て石だと思っている、軽薄な存在として描かれている。現代で例えるならいわば末端の彼らが直接言葉を交わすことはない「会社のトップ」である。明治維新の立役者・西郷隆盛も、終盤の一場面にしか登場しない。

 つまり、本作が描くのは、大政奉還直後から江戸城無血開城に至るまでという時代の転換点に居合わせながら、そのことをほとんど知らされないまま、防御方法すら教えてもらえず「捨て石」として戦わされる人々の姿だ。ウシが「やっと戦う理由ができた」と言う場面がある。でもそれは、本当は戦う必要がなかった彼らが、戦う理由を持たずにはいられなくなった悲劇でもある。「バケモノ」伊牟田もまた、ウシたちと同じ「非正規部隊」の一員に過ぎず、ウシが取った伊牟田の首を巡って起きたその後の出来事にウシが不可解な顔をすることで、彼らの知り得ない、もっと大きなバケモノの存在を匂わせるのである。

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