染谷将太ら役者陣も最高の演技 『いちげき』が“平ら”にした現代社会にも通じる“呪い”

『いちげき』が“平ら”にした“呪い”

 そんな状況下にいる彼らの何が強いかというと、自分たちの力で、あらゆる「呪い」を取っ払い、物事を「平ら」にすることができることだ。1つは、彼らが度々行う「力石/米俵を持ち上げようとする儀式」である。ウシがまず、力石を持ち上げる。「武士がどしただ、身分なんてくだらねえもん、なくなっちまえばいい」と言いながら。見事持ち上げた彼は一撃必殺隊の一員になる。次はキクが「男とか女とかくだらない!」と言いながら米俵を持ち上げようとし、一員として認められる。さらには島田が力石を持ち上げようとすることで、自ら「百姓の仲間入り」をし「一蓮托生」を誓う。

 つまりは、「身分」「ジェンダー」「上下関係」といった人々の間に壁を作る「くだらないものがなくなればいい」というそれぞれの思いが、重い石/米俵を持ち上げ、例え持ち上げられなかったとしても、そこにいる全員の思いを一つにし、それによって彼らは「平ら」になる。その瞬間、彼らの周りに蔓延る「百姓の分際で」「女のくせに」という呪いの言葉は霧散するのである。

 一方、彼らの知らないところで世の中は動き、「侍の時代は終わり、この国は変わる」。「身分という考え方は古くなり、侍も百姓も上も下もなくなって平らになる」ことが決定する。そこで起こるジレンマも興味深い。

 また、最後の場面は、ウシがかつての自分のような百姓に、暴力ではなく、不要になった「刀」をあげることで締めくくられていた。それは、かつての島田の模倣とも言えるが、これもまた、1つの呪いを取っ払うことでもあるとも言える。本作のシビアさの根底には、「暴力には必ず暴力が返ってくる」という法則がある。前之助を殺したウシは、前之助を愛した伊牟田によって、最愛の妹を殺される。切腹を茶化し強要したウメ(細田善彦)には、実際には免れたけれど「切腹」が自身の身に返ってきた。その流れに対しウシが、かつて自分がされたことを人にせず、暴力には暴力をではなくギフトで返すこと。それによって彼は、自ら世界を「平ら」にし、少なくとも自身の「暴力の連鎖」を断ち切るラストを描いたのではないか。

 さて、本作で幕を明けた2023年はどういう1年になるだろう。島田の言うところの「今より悪くなることはない」1年なのだろうか。しっかり生きていこう。力石に挑めるほどの底力を蓄えて。自分たちの力で、せめて自分の生きる世界ぐらいは、「平ら」にできる気概を持って。

■配信情報
正月時代劇『いちげき』
NHK+、NHKオンデマンドにて配信中
出演:染谷将太、町田啓太、松田龍平ほか
原作:『いちげき』松本次郎・『幕末一撃必殺隊』永井義男
脚本:宮藤官九郎
音楽:遠藤浩二
演出:松田礼人(TBSスパークル)
制作統括:樋口俊一(NHK)、加藤章一(TBSスパークル)
プロデュサー:塩村香里(TBSスパークル)
写真提供=NHK

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