「アバ体験!!」と叫ばずにいられない 『アバター:WoW』は劇場体験一点突破作品

『アバター:WoW』真に迫る映像体験

 正直な話、自分は『アバター』(2009年)が好きではない。そんなに面白くないし、なぜ『アバター』が世界興収記録の1位に輝いているのか理解できなかった。『007 スペクター』(2015年)の爆破がギネス世界記録に輝いているくらい納得がいかなかった。そんな自分が『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を観たのは、ジェームズ・キャメロンがジャパンプレミアで、「アバ体験!!」と叫んでいる姿を見たからだ。わかったよキャメロン。あんたがそこまでやるなら、俺もやってやろう。そう思った次第である。

 とはいえ、『アバター』の悪印象が拭えたわけではない。「どうせそこまで面白くないだろう」。ほとんど舐め切った状態で観に行った。おまけにその日の睡眠時間は3時間。下手すれば寝てしまうことも覚悟しながら観た。結論から言う。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はそこまで面白くない。脚本は凡庸で古臭く、特筆すべきところはなにもない。だが、自分は3時間スクリーンに釘付けだった。目が奪われた。心が奪われた。睡眠不足にもかかわらず、ずっと目を見開いていた。それほどまでに凄い映画だった。

 経験から言うと、睡眠不足の状態で映画を観るのはおすすめしない。映画館の薄暗い照明。座り心地のいい椅子。ほどよい温かさに保たれた室温。最善の環境で映画を観るために整えられたはずの設備が、一気に睡眠にとっての最善な環境に様変わりしてしまう。自分は映画が大好きだ。愛している。それでもやはり、映画館で寝てしまった経験は残念ながらある。もちろん映画を観るにあたってカフェインをとるなどの対策もあるが、どういうわけかカフェインには利尿作用もある。諸刃の剣なのだ。もはや睡眠不足の人間にできることは、これから観る映画が激烈に面白いことを祈ることだけ。そして『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は激烈に面白い映画ではない。家族の物語は古臭く凡庸だし、自然と共生するナヴィたちの生態はジェームズ・キャメロンの語りたいテーマに対してすこぶる都合がいい。恐らくこれを家のTVで観ていたら相当鼻についたのではないかと思う。だが自分が『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を観たのは家のTVではなく、IMAX 3Dハイフレームレート版だった。

 本作の上映がはじまった瞬間、ジェームズ・キャメロンがジャパンプレミアで「ウェルカム・トゥ・パンドラ」と言った意味がよくわかった。自分は確かに神秘の星パンドラに招かれたような感覚を味わった。雄大で豊かな自然。そこで暮らす、時に美しく時に恐ろしい動物たち。どんなに言葉を尽くそうとも決して表現しきることのできない「神秘の星パンドラ」という膨大な情報量。それがIMAX 3Dハイフレームレートという規格によって脳に直接流しこまれる。不思議なのは、VRのように『アバター』の世界観に主観的に没入した感覚ではなく、目の前にワームホールが開通してそこを通じて神秘の星パンドラの営みを直接みているような感覚に陥ったことだ。現代の技術で作られた現代の映像のはずなのに、未来のカメラで撮った未来の映像を観たような感覚にも陥った。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はそれほど未知の観賞体験を届けてくれる。

 そして特筆すべきは本作の舞台の中心である「海」の映像だ。前作でも登場した森林の映像だけでも凄かったが、物語の舞台が海に移ってからはもう圧巻だ。波に揺らめく日差しに、視線の先を泳ぐ未知の生命体。どこまでもクリアでどこまでも美しく、どこまでも生命力に溢れている。これはキャメロンがパンドラまで行って撮ってきたドキュメンタリーだ。そう錯覚するほどの実在感。この時から自分はどこまでも『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の世界観に飲み込まれていく。眠気などどこかへ行ってしまった。脳が直接ハックされるような視覚体験に、ただただ目を見開いた。

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