前作と同じ展開の繰り返し? 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』に感じた複雑な思い

『アバター』続編に感じた複雑な思い

 『ターミネーター』シリーズ、『エイリアン2』(1986年)、『タイタニック』(1997年)、そして『アバター』(2009年)などなど、常識を覆すような挑戦的な娯楽タイトルを世に送り出し続けてきたジェームズ・キャメロン監督。大作を継続的に手掛けてきた彼が、これまでにないブランクを経て、じつに13年ぶりとなる監督作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を完成させた。

 ダイナミックで神秘的な自然が息づく、太陽系外の星系にある衛星「パンドラ」を舞台に、その資源や土地を奪おうとする地球の人間たちと、自分たちの暮らしや生態系を守ろうとする「ナヴィ」たちの戦いが描かれた『アバター』シリーズは、その続編となった本作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で、再び双方がぶつかり合うことになる。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

 最新技術を駆使し、新たな映像の革新を何度もおこなってきたジェームズ・キャメロン監督は、前作『アバター』において、立体映像技術を発達させることで3D映画の可能性を大きく広げることになった。インターネットによる映像配信サービスが発達し、劇場に足を運ぶ観客が減少傾向にあるいま、この映画館の設備でしか体験できない娯楽表現を送り出したという試みは、映画業界全体に寄与するものだ。

 とはいえ、その結果として現在3D映画が主流になっていないのも確かなことだ。これは多くのタイトルが、立体映像に特化した作品づくりができていないことに起因している。『アバター』第1作は、映像面で多くの驚きを用意し、立体的な画面構成を根本的な部分から考えている。だが、立体映画の未来に賭けるキャメロン監督ほどの熱意やビジョンを持つクリエイターたちが、後にそれほど続かなかったというのが現実なのである。

 立体映像は新しい表現の可能性を獲得しながらも、同時に平面の映像に比べて、構図が限定されてしまうなど、映像づくりの幅が狭まってしまう部分もある。計算された立体映画を完成させるためには、技術や経験、予算が必要となるのだ。つまり、意欲を持った若いクリエイターが挑むべき分野であるにもかかわらず、挑戦するための敷居が高いのだ。

 かといって、ロバート・ゼメキス監督などの例外を除いて、ベテラン監督の多くも立体の映像表現にあまり興味を持たなかったのも事実。観客にとっても、そういう状況下において立体映像に特化していない立体映画を観ることに、あまり意義を感じられないというのが、正直なところなのではないだろうか。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

 その意味で、3D映画の可能性を追求した本作が登場したことは小さくないといえる。実際に鑑賞すると、やはり『アバター』シリーズは、立体映画のなかで一線を画したものとなっているのが理解できるはずだ。とくに本作では、前景に飛び出させたい被写体をフレームに収めて撮ると、不自然な光景になってしまう場合があるという、立体映像が持つ根本的な弱点を熟知しているため、違和感を覚えないまま利点だけを楽しむことができる。

 同時に、アクションシーンやスペクタクルシーンにおいて、コマ数を増やす「ハイフレームレート」を部分的に利用することで、海洋の美麗な世界を際立たせてもいる。このような限定的な使用もまた、日常的なシーンではコマ数が多いと逆にリッチさが失われてしまうといった弱点をカバーするものだ。キャメロンが製作した『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)同様、高精細なモーションキャプチャーによって俳優の演技を表情までトレースし、さらに水中での演技を再現している点も、新しい技術として挙げられる。

 しかし、ここで逆に思い至ってしまうのは、やはり立体映画やフレームレートの増加など、新しい技術で世界を表現することの、根本的な難しさだ。本作のように、撮影前の準備はもちろん、撮影後もワンシーンごとに吟味し、ここまで労力をかけなければ弱点が露呈してしまうというのであれば、後続がいなくなるのも当然といえば当然なのではないか。そして、そうやって作り上げられたCGアニメーションが、例えば本物の海で生身の俳優を映した映像と、どちらがリアリティを感じるかという疑問も発生する。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

 筆者は、街全体がリアルに作り込まれた最新のTVゲームをプレイしていて、その完成度の高さや実在感に感心したことがあるが、その直後、現実の街を散歩しているときに、「よく考えたら、現実の方がより“リアル”ですごいんじゃないか」ということに思い至り、街の風景を驚きをもって見直し、その辺に生えている木や草をしげしげと眺めて触りながら、「ああ、これこそリアルだ……!」と、不審な行動をとりながら奇妙な感動を覚えるという経験をしている。

 もちろん、劇中で紹介されるパンドラの生態系は地球とは異なるため、それを克明に表現しようとすれば、全体をCGアニメーションでコントロールするのが、理論上は最も理にかなっているように思える。しかし、ある一点を超えて、リアルな映像を目指せば目指すほど、実写映像のリアリティの方が上なのではないかと思えてくるのだ。

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