『エルピス』パンドラの箱に最後に残ったもの 長澤まさみ演じる恵那が見出した希望の意味
斎藤の熱弁に対して、報道の使命という観点から冷静に反駁する恵那。沈黙の末に切り出したのは、本城彰(永山瑛太)の捜査及び報道に対する不介入という条件だった。数秒の沈黙と持ち帰り報告を経て、大門サイドの了承を得た斎藤は「今夜のトップニュースで出してかまわない。明日まで待つと、君は事故か病気で出れなくなるよ」と伝える。権力を倒すには一撃で瞬殺するしかないという佐伯(マキタスポーツ)の言葉を実践したような恵那のしたたかさに舌を巻くが、それ以上にかつての恋人にさえ直接の実力行使を予告した斎藤に権力が剥く牙の鋭利さを感じた。
こうして連続殺人事件の捜査線上に彰の存在が浮上し、松本(片岡正二郎)は冤罪であることが証明。不安の中で日々を過ごしていた関係者も、霧が晴れたように新たな人生を歩み出した。松本はおいしそうにカレーをほおばり、さくら(三浦透子)はケーキを口にする。人生の断章がつながった瞬間だが、真実が勝利したと単純に喜ぶわけにいかない。光射す真実もあれば闇に沈む真実もある。亨の告発はまたしても葬られ、大門は延命した。権力を持つ人間が自らを守るために影響の少ない周辺の人間から切り捨てる様子は、見るからにおぞましいものだった。そのことは恵那も理解しているだろう。理解し亨の思いも汲んだ上で一つの真実を救う選択をしたのだ。
「正しいことがしたいです」。第3話で拓朗がつぶやいた言葉だ。「この世に本当に正しいことなんてたぶんない」と恵那は言うが、拓朗の正しさは自身の罪と向き合う中にあり、そこにしか正しさはなかった。同じことは真実についても言える。うがった見方をするなら、彰が八頭尾山連続殺人事件の犯人じゃない線もわずかながら残されていて、その可能性は本人の自白がない事実が示唆し、恵那の読み上げ原稿でも犯人であると断定していない。真実はある。しかしそれを完璧に証明する方法はなく、できるのは暫定的な推論と真実の誤差を少しでも縮めることだけだ。だからこそ目の前の相手を信じられることにも意味がある。私たちは切れぎれにつながった断章が指し示す不確かな未来を歩む以外にない。それが希望でも、災いでも。
■配信情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
FOD、U-NEXTにて配信中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv