『エルピス』パンドラの箱に最後に残ったもの 長澤まさみ演じる恵那が見出した希望の意味

『エルピス』恵那が見出した希望の意味

 パンドラの箱に最後に残ったのは真実だったのか。12月26日に放送された『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)最終話では、暗い夜のとばりに明け方の光が差した。

 『ニュース8』に乱入した村井(岡部たかし)に衝撃を受けた恵那(長澤まさみ)は拓朗(眞栄田郷敦)のもとを訪れ、大門亨(迫田孝也)の死の真相を知る。後悔の念に駆られ負けたとうなだれる拓朗に、恵那は「そんなひどいことに負けながら生きてはいけない」と異議を唱え、自分が番組で取り上げると言い張る。

 「何の罪もない人がこれ以上犠牲になるのを見ていたくないだけ。一人の人間としてまともに生きたいだけ」「当たり前の人間の普通の願いが、どうしてこんなにも奪われ続けなきゃいけないのよ。こんなにも心の中の一番大事なものを押し潰されながら、どうやって生きていけばいいんだよ。どうやって希望を持てばいいんだよ」。振り絞るような恵那の叫びは、残された亨の肉声に触れることで安息を見出す。亨は拓朗に感謝していた。義理の父親である大門副総理(山路和弘)に殺されたとしても、たった一人でも信じられる相手がいて真実を託せるなら本望だ。亨の言葉はそう言っているように聞こえた。亨の声を聞いた恵那は自分には信じられる人がいて、それこそが希望だったと気付く。

 『ニュース8』の本番直前に滝川(三浦貴大)を説き伏せ、大門による派閥議員のレイプ事件もみ消しをトップニュースで取り上げようとする恵那の前に斎藤(鈴木亮平)が現れる。これまでも冤罪事件に深入りしないよう忠告したり、恵那や拓朗の動向を探ってきた斎藤は、事ここに至って報道を取りやめるよう直接交渉に乗り出した。

 斎藤の言辞は巧みで能力の高さを示して余りある。斎藤の言っていることはもっともそうで説得的なのだが、それがかえって内容の空虚さを浮かび上がらせる。「たしかに」と相手に理解を示しながら「しかし」と反論する陳腐な構文の羅列と、全体最適を偽装しながら個を抑圧する論理。あげく「時間をくれ。俺にしかるべき力がついた時には君が言ったことに必ず答えてみせる」とどこかで聞いたようなセリフを引っ張り出す。念のため補足すると、現行の体制で上に行った人間が現状を変えられると考えるのは端的に期待薄で、改革を後回しにする理由になっていない。「この国という体の小さな細胞の一つ」という表現も全体主義を想起させゾッとする。情熱的に語るほど滑稽になるきわどいバランスを、鈴木亮平はよく咀嚼した上でありったけの熱量を込めて演じきった。

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