『鎌倉殿の13人』大河ドラマ史に残る最終回 政子によって孤独から“解放”された義時の最期
最終回において最も印象的で、義時の命を奪う決定打となったのが政子とのやりとりだ。政子が見舞いに訪れたとき、義時は頼朝が亡くなってから死んでいった人々のことを思う。梶原景時(中村獅童)、阿野全成(新納慎也)、比企能員(佐藤二朗)、仁田忠常(高岸宏行)、源頼家(金子大地)、畠山重忠(中川大志)、稲毛重成 (村上誠基)、平賀朝雅(山中崇)、和田義盛(横田栄司)、源仲章(生田斗真)、源実朝(柿澤勇人)、公暁(寛一郎)、阿野時元(森優作)、この13人は皆、鎌倉のために命を落とすことになった人物だ。鎌倉殿「の」13人ともいえる人々を義時が思い返していると、政子の表情が凍りつく。そして政子は静かに問いただす。
「頼家がどうして入っているの?」
「だっておかしいじゃない。あの子は病で死んだと、あなたは」
義時の顔色が変わるのを見た政子は、「駄目よ、嘘つきは、自分のついた嘘は覚えてないと」と諭した。残酷で悲しいやりとりに、血の気が引く感覚を覚える。争いのない世が来ることへの希望は確かにある。けれど、そのために義時が、身内をも欺いて行った悪行とも呼べる出来事が最後までこの姉弟にまとわりついて離れない。
体の調子がすぐれない義時は、政子に薬をとってほしいと頼んだ。「私にはまだやらねばならぬことがある」と、次なる粛清を目論む義時に、政子は「まだ手を汚すつもりですか」と悲しげな目つきで問いかける。「この世の怒りと呪いを全て抱えて、私は地獄へ持っていく」と苦しげに話す義時は鬼の形相だ。運慶(相島一之)に作らせた自分に似せた仏像は阿弥陀如来の胴に邪鬼の顔がついていた。義時はそのことに怒りを露わにしたが、「やるべきことがある」と生にしがみつき、何度でも手を汚そうとする義時の面持ちは、皮肉にも運慶の仏像に似て、とても不気味だ。その姿が政子にある決心を抱かせた。
「私たちは、長く生き過ぎたのかもしれない」
政子は義時の目の前で薬を捨てた。誰よりも家族を愛していた政子が、初めて自分の手を汚した瞬間だった。しかしこれもまた家族のためだったように思う。義時の口から頼家の死を聞かされたことに何も思わなかったはずはない。けれど、それ以上に、愛する弟にこれ以上罪を背負わせたくないと思ったのではないだろうか。
刻一刻と近づく義時の最期を感じながら、政子は「北条泰時を信じましょう。賢い八重さんの息子」と優しく声をかける。義時が息も絶え絶えに、泰時に八重の面影を感じるといって微笑むと、政子は「でもね、もっと似ている人がいます。あなたよ」と言った。その言葉を受け、義時は絞り出すような声で「姉上……」と名を呼ぶと息を引き取った。
妻、親友、そして姉から命を奪われたようにも見える義時の最期だが、義時は決して孤独な最期を迎えなかった。当然の報いともいえる最期だが、鎌倉のために鬼と化した義時を、政子が涙を流しながら看取ったことで救われたともいえる。政子のすすり泣く声で幕を閉じた『鎌倉殿の13人』。忘れることのできないラストとなった。
■配信情報
『鎌倉殿の13人』
NHK+、NHKオンデマンドにて配信中
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK